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青森県における麻疹対策と予防接種広域化の現状

2005年08月29日 | こども・小児科
#以下は日本小児科医会会報に掲載予定の原稿ですが、そのままこちらに掲載しておきます。青森県における麻疹(はしか)の流行状況と対策の経緯を簡単にまとめたものです。

青森県における麻疹対策と予防接種広域化の現状
         青森県小児科医会 久芳康朗

●全国ワースト1の流行から

 青森県では2002年初頭より全国平均を上回る麻疹の流行が続き、同年4月から6月にかけて全国ワースト1を記録する事態となった。県でも麻疹流行防止対策保健所長会議を開催するなどして流行の拡大防止に務めたが、実際にとられた対策は健診や他の予防接種の際の接種勧奨や広報による呼びかけといった一般的なものであった。

 それまで県内では郡部の町村を中心に個別接種への移行が進まず、集団接種も接種回数が限られるなど接種率向上を阻害する要因が大きく、麻疹の接種率は平成11年度62.1%、12年度72.6%と全国平均を大きく下回っていた。この接種率も実施計画により算出された対象者数を分母とした数字であり、全県的な累積接種率の調査はなされていなかった。

 八戸市では、医師会と市や県の担当者を交えた対策会議を開催し、上記の他に入園入学時のチェック体制や予防接種広域化に向けた働きかけなどが検討され、1歳以上の麻疹未接種児がポリオやBCGの集団接種を受診した際には担当医から接種勧奨を行い、麻疹流行時にはポリオを取りやめて麻疹を受けさせるよう指導を統一させた。1歳半健診時の未接種者への勧奨と健診未受診児への連絡などの対策も各市町村で行っている。

 その結果、2004年に県小児科医会で実施した接種率調査(後述)において、八戸市では累積接種率が生後17か月で76.7%から87.3%へ、35か月で86.4%から98.2%へと、2年間で約10%上昇してほぼ満足できるレベルにまで達していた。一方、隣接する階上町では八戸市と一体化した個別接種が行われているにも関わらず、接種率が2002年の八戸市と同等であったことから、体制面ではなく実際の対策を地道に行ってきたことが接種率を押し上げた要因ではないかと推測される(図1)。
図1

 全県的にも、接種体制の大きな変化があったわけではないが、全国の流行状況と合致して、2004年以降散発的な発生報告のみで流行に至らない状況が続いている(図2)。
図2

●全国の対策に遅れをとる

 青森県では麻疹だけでなく乳児死亡率や平均寿命、さらには自殺率に至るまで全国最下位を争うような状態が続いてきた。その要因として厳しい気候や地理的な条件、人的資源の不足、県民所得の低迷などがあげられ、町村部で個別接種への移行が進まなかったことも、自治体財政の悪化が主な要因であった。

 しかし、流行のあった2002年の時点で沖縄や北海道から始まった「はしかゼロプロジェクト」の動きは全国に広がってきており、広域的予防接種も多くの県で実施されるか具体的な検討に入っていたが、青森県は全く検討されていない最後の県の1つに入るなど、情報や施策の面でも大きく遅れをとっていた。

 この間の「はしかゼロ対策小児科医協議会」設立や「はしかゼロプロジェクト・アピール2003」なども踏まえて、県小児科医会でもアクションプランを作成し、県知事に対して「はしかゼロプロジェクトについての提案」を提出した(2003年11月)。

 その概要は、他の先進地域と同様に、5年間で1歳児の接種率を95%以上に引き上げて県内の麻疹患者発生をゼロにし、10年間で排除期に到達することを目標とするもので、具体的活動としては予防接種の全県広域化、継続的な接種率調査と患者全数把握システムの構築、未接種者への接種勧奨や教育・広報活動などを主とするものであった。

●予防接種率調査と広域化実施への検討

 2004年に「21世紀の予防接種」をテーマに八戸市で開催された東北北海道小児科医会連合会を機に、県小児科医会の佐々木が中心となって県内の各市町村における接種率調査が行われ、累積接種率の平均は生後18、35か月で40.5、82.5%と全国と比べ低水準であり、接種体制によって大きな差がみられた。

 同時に、県でも我々の提案を受けて広域化実施に向けた調査検討に入り、小児科医会および県医師会とも意見交換が開始された。

●予防接種広域化の実際と今後の課題

 現在、医師会と県が中心になって予防接種の広域化に向けて検討が重ねられており、2006年4月から実施の予定となっている。その概要としては、大分方式などを参考にして、次のような方向で準備が進められている。

1)参加は各市町村の手挙げ方式
2)種類はBCG、三種混合、麻疹、風疹(麻疹・風疹混合ワクチンに変更予定)、日本脳炎、二種混合の6種類
3)契約は市町村長と県医師会長
4)接種料金は統一しない
5)予診票は統一する
6)請求事務は医療機関から市町村へ直接
7)依頼書は不要

 広域化にはできるだけ多くの、望ましくは全ての市町村が参加してはじめて県内の子どもたちが等しく接種の機会を与えられることになるのだが、参加市町村がどの程度になるか不透明なことが最も懸念される点である。

 また、提案した麻疹対策のうち実際に動き始めたのは広域化のみであり、その他の対策は検討課題となったまま進展していない。

 現在、県内で流行が小休止の状態にあり、来年度から広域化やMRワクチン2回接種が実施されることで、少し安心している感がなきにしもあらずだが、例えば八戸市の2003年の就学時健診における麻疹予防接種率は86.8%と低く、年長児や成人の感受性者が多数残されていて市町村によって大きな差が存在することを考えると、いつ流行が拡大してもおかしくはない。