風の遊子(ゆうし)の楽がきノート

旅人を意味する遊子(ゆうし)のように、気ままに歩き、自己満足の域を出ない水彩画を描いたり、ちょっといい話を綴れたら・・・

楽書き雑記「席を譲ってくれたお相撲さん」

2013-07-05 20:06:33 | 日記・エッセイ・コラム

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大相撲名古屋場所が7日、名古屋城そばの愛知県体育館で開幕しました。名古屋市内や近郊のお寺など約50カ所の宿舎では朝早くからぶつかり稽古の音と声が響き、駅や地下鉄の車内などでもひと際大きな「お相撲さん」と出合います。いわば、名古屋の夏の風物詩でもあるのです。

15年ぶりの日本人横綱誕生か、で関心を集める今場所ですが、今回書くのは数年前、名古屋の地下鉄車内での僕の体験です。

朝のラッシュがひと息ついて、車内は座席がちょうど埋まったぐらいでした。乗り込むと、座席に座る浴衣姿の「お相撲さん」が僕の目に入りました。「ああ、名古屋場所が始まったんだ」。そう思いつつ吊革に手をかけたとき、彼はゆっくりと立ちあがり、僕の方へ歩み寄ると「すいません。掛けてください」といったのです。

僕は立っていても大丈夫、と遠慮していた時代もあったのですが「席を譲られて断るのはマナー違反」との話を聞き、好意を素直に受けることにしています。

 

座って彼の方を見ました。番付で髪型・履物・着衣などが違う大相撲の世界から判断すると、彼の番付はかなり下のようです。「愛知県体育館に向かっているのだな。彼の地位だと取り組みが少ないので、一番いちばんが(十両以上の)関取以上に厳しいだろう」などと考えつつ、彼を改めて見て気付きました。

顔色がさえないのです。疲れているようにも見えます。足には大きなサポーターも。

「宿舎で早朝からの食事作りや掃除などの雑用、そして稽古。きょうは取り組みがなくても兄弟子の付き人などの役割もあるはず。座席に座っていたのは、体調が良くないからだろう」
「席を譲ってもらって申し訳ない。やっぱり、僕が立とうかな」などと思いをめぐらしました。
でも立ちませんでした。かえって、彼につらい思いをさせるのでは、と考えたからです。

約20分後。僕は乗り換えのため、立ち客でいっぱいなっていた車内から降りる際、彼に近づき「ありがとう。頑張ってくれよ」と声を掛けて肩を軽くたたきました。
その時の、頭をちょこんと下げ、はにかんだような彼の表情。心から「頑張ってほしい」と思ったものです。



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