リタイア暮らしは風の吹くまま

古希を迎えて働く奥さんからリタイア。人生の新ステージで
目指すは悠々自適で遊びたくさんの極楽とんぼ的シニア暮らし

☆思いがけず引っ越し大作戦が始まって

2015年03月18日 | 日々の風の吹くまま
3月17日。あれは1月下旬。北米東部では記録的な寒波の上に大雪に次ぐ大雪なのに、バンクーバーの冬は記録的な暖冬で、早々と桜の花芽が見えてきた。春爛漫の到来を感じていたときに、我が家の後ろの家に住むうるさい活動家タイプのミシェルがカレシに我が家の外に路駐しているトラックと車の間を詰めてくれとメールして来た。間借り人が車を止めるところがないと言っているらしい。この15年ほどの間にバンクーバーの住宅価格が呆れ返るほど高騰して、マイホームを手に入れるためにはベースメントに間借り人を入れて家賃を稼がないとローンを払うことができない。戸建て住居のベースメントの貸室が「モーゲージヘルパー」と呼ばれるのはそのためで、バンクーバー市は「家族が住宅を取得するのを支援する」ために市内全域で許可している。そこで発生するのが駐車スペースの問題・・・。

ミシェルの要求に、カレシは「オレの家の外だからどう止めようとオレの勝手」と取り合う気がない。カレシの意固地も困ったもんだけど、カレシに思うところがあったのか、ミシェルの要求通りにトラックを前に動かしておいたら、後ろに止めてあったパットの車との間にちゃっかり入り込んだ車があった。カレッジの学生かと思ったら向かい側にも2台。どうやらパットの隣の迷惑一家の悪がきの仲間らしい。そこへパットから「知らない車が止まっている。通報してくれ」と催促の電話。隣のパットは法的には角地にある我が家の南側の道路の住人じゃないので、取締りを要求できる立場にないんだけど、いつのまにかカレシのトラックの後ろを自分専用の駐車スポットにしていて、誰かが止めるとカレシに通報を以来して来るから困る。隣の迷惑一家に自分の家の前のスペースを占領されているからしょうがないところもあるんだけど・・・。

カレシが(いつもながら渋々と)駐車違反取締係に電話したら、いつのまにか「住人専用」の路駐規制が有料の許可証制に変わっていて、旧制度下の住宅地域では経過措置として午後2時以降は対応しない方針になっていた。まあ、戸建てに貸室が加われば車の数が増えて、駐車スペースの争奪戦になるのは火を見るより明らか。「あの迷惑一家がいる限りは解決しないし、パットも問題のうちなんだから、オレはもう知らん」とカレシ。そこで思わずいっそのこと引っ越そうか?と言ったのがきっかけで、急転直下のごとく「引っ越し大作戦」が始まってしまった。今の土地に引っ越して来てこの秋で33年、ぼろ家を壊して新築してから27年。周囲の環境が大きく変わって、前の道路の交通量が増えたし、住人の代替わりで若い層が代わりでお互いについて行けなくなったと感じていたのかもしれない。

じゃあ、どこへ行く?真っ先に思いついたのが隣のバーナビー市北部のブレントウッドという地区。そこは大規模な再開発計画で20階、30階の高層コンドミニアム(タワーマンション)が建ち並んでいて、Save-Onがあるし、近々Whole Foodsもできるし、ショッピングセンターと電車の駅に近い。今はバンクーバーのダウンタウンへ遠回りになるけど、来年の夏に新しい路線が開通すれば便利になる。「オフィスを作るスペースがあって、ガーデニングができる広いバルコニーがあって、地面から離れたところ」というカレシの最低条件から、「寝室3つ」を条件にして検索したら、ぞろぞろ出て来た中に「ペントハウス」が何件か。最上階のユニットのことで、床面積は広めのものが多いし、専用駐車スペース2台で、バルコニーも広い。希望価格は我が家の評価額の7~8割で、我が家を地価で売ってもたんまりお釣りが来る勘定。ワタシは「いいなぁ」と夢見心地で、カレシは広いバルコニーに「いいねぇ」。戸建てを買えば温室を持って行けると言ってみたら「戸建てはもうめんどくさい」。じゃ、ペントハウスか、でなければできるだけ高層階のユニットを探そう・・・。

ネットで検索してまず見つけたのが築10年のタワー。30階に150㎡とかなり広いペントハウスが売りに出ていた。写真を見たらモダンなオープンプラン。カレシが覗き込んで「いいねえ」。リビングに両面型のガス暖炉があって、後ろ側はファミリールーム。ここを2人のオフィスにしたらいいね。寝室3つ、バスルーム2つ。駐車スペースは3台分で、物置もある。外のバルコニー(デッキ)もかなり広い。西、北、東と眺望があるそうで、バンクーバーの夜景はきれいだろうな。ま、景色なんて美人と同じで、住み始めて3日もしたら興味がなくなるもんじゃないかと思うけど。とりあえず不動産会社にメールして、引越し作戦のキックオフしたところで1月が終わり・・・。

2月に入って紹介された不動産エージェントとのやり取りが始まった。住所を聞いて「いい立地だ」。評価額を聞いて「需要があるから、いい値で売れる」。そりゃ地下鉄駅周辺と沿線の高密度化の圧力が波及して来そうなところだから、需要はあるだろうな。ポールと会ったのは引っ越そうと言い出してから2週間ほど後。外回りを検分したようで、ゴルフ場、カレッジ、地下鉄駅、(大規模な再開発を控えた)モールに近いし、南北の道路に面していて住所に「East(東)」がついていないし、しかも人気のある角地だから、すごく条件がいい、と。いいことずくめだけど、まっことかいな。それにしても、我が家はバンクーバー市を東西に分ける道路の東側、つまり「イーストサイド」の側にあるんだけど、不動産業界ではいつのまにか「ウェストサイド」になっているらしい。昔からウェストサイドの方が格が上と言うことになっているもので、景気がいいと我が家の一帯はよく「ほぼウェストサイド」なんて謳い文句がついていた。それが今や「ほぼ」じゃなくてれっきとした「ウェストサイド」。なるほど、いくら見栄を張って「ウェストサイド」だと言っても、住所を見ればほんとは「イースト」だってことがすぐばれるから、「E.」のつかない住所は条件がいいってことか。

まずは家の中を回って見てもらった後で、私達の方から新築用宅地として売ってかまわないと言っておいた。ワタシとしては自分で設計した家に住むという十代からの夢を果たした家なので、何となく知らない人に住んでもらいたくない気持がある。ポールは持参した分厚い資料を見ながら、「家を度外視しても評価額よりもかなり高く売れる」と。なぜなら、地下鉄沿線再開発による需要が波及しているし、角地で隣家のない長辺が南向きだし、ゴルフ場が「お向かいさん」で家が並んでいないから開放的だし、テニスコートや小学校から離れているから静かだし、二階の南西の角からは緑と空(特に夕焼け)の広がりを眺められるし、裏の車庫の横と上の空間に後ろの家を覗かないような配置で50㎡前後の(賃貸用)レーンウェイハウスを建てられるし、現行の建築条例では25%広い家を建てられるから、ベースメントにも貸室を作れてローン返済の足しになるし、2月に入ってから戸建て物件の動きが活発で、売れ足が速くなっているし・・・というわけで、売る方に関しては問題はなさそうだけど、売れたら引越し先が必要なわけで、ペントハウス(最上階)、寝室3つ、広いバルコニー、駅近くという条件だと1フロアに3、4戸しかないから絶対数が少ない。ブレントウッド地区を第一希望として、バーナビー南部のエドモンズ駅周辺も視野に入れて、明日からでも手当たりしだいに見て回った方がいい。Get the ball rolling(事を始める)と言うけど、ボールが転がり始めたらどんどん転がして行かなきゃ・・・。

「13日の金曜日」。新聞を見ていたら、あら、ゴルフ場の向こう側のリハビリ施設や長期介護ホームがある保健医療局の所有地の売却が決まったというニュース。再開発が進む地下鉄沿線の土地のうち9ヘクタールを買った開発業者が3年後から28階、30階のタワーマンションを含む3000戸近い分譲ユニットの建設を始める計画で、すぐそばに新しい地下鉄駅を作る資金も分担。もしかしたら我が家の市場価値も上がるのか。隣のバーナビー市の南からさらに先の隣のニューウェストミンスター市まで範囲を広げてみたら、坂道を上がったアップタウン地区に16階ワンフロアを独占する177平方メートルのペントハウスが見つかった。最初に見に行く予定だった3件のうち2件が週末のうちに売れてしまったので、提示価格が予算の上限だし、管理費がえらく高いけど、エアコン付きなのが魅力で、見に行くことにした。

ネットで見つけた間取り図を見たら、「エレベーターのドアが開くとそこはおうちだった」という感じ。こういうのが本来のペントハウスなんだろうけど、ホテルみたいな不思議な感じ。ロビーでポールと落ち合って、売り手側のエージェントと一緒にエレベーターで「物件」へ。キーリングにつける電子キーみたいなものでピッとやると行き先の「PH2」のボタンを押せる仕組み。エレベーターが止まって、ドアが開いたら、ほんとに家の中。玄関ドアと言うものがない。眺望はほんとにすばらしい。ワンフロア独占だから、景色は360度。工事開始前のプレセールで買った夫婦が完成前に別れてしまって、まだ誰も住んだことのない新品。ただし、バルコニーが小さいし、屋根つきなのがカレシの条件に合わない。

ポールがしきりに「市場が燃えているよ」と言うのを半信半疑で聞いていたら、今週に入って東は3軒先、北はひとつ先のブロックで「売家」の看板が立ってびっくり。希望価格を聞いて仰天。評価額と比べてさらに仰天。おまけにまだ売る気のない隣のパットが不動産屋に具体的な買値を示されたと言うので唖然。どうも地下鉄沿線の再開発計画区域で買い損ねた中堅業者が周縁部で「地上げ」を始めている感じだな。あんがい我が家もほんとにポールが自信があるという希望価格で売れるんじゃないかという気がして来た。情報通のパットによると近所の独居老人2人が大病で入院したそうだから、近いうちにもう2つ「売家」の看板が出そうな予感。新聞にはバンクーバーでは売値の中央値が全市で100万ドル(約1億円)を超えたという記事があった。誰が買っているんだろうな・・・。

次に見たのが同じ建物のペントハウスと一階下のサブペントハウス。お隣のバーナビー市の南部で、幹線道路キングスウェイはうらぶれた感じだけど、新装したモールの後ろに30階前後のタワーが4棟あって、高級化への過渡期にある感じ。徒歩3分くらいで行けるモールにはスーパーも酒屋も銀行もあって、電車の駅は徒歩15分。サブペントハウスは30階にあって、所有者が戸建てを買ってすでに引っ越してしまったので、ソファや食器やグラスを並べたテーブル、寝室のベッドなどは、プロのデザイナーが設えた「セット」。空っぽでがらんとしていると買い手にアピールしないらしい。ワタシなら空っぽの方が頭の中で家具を置いてみてどんな具合になるか見られていいと思うけどな。広さは150平米で、ペントハウスよりもずっと広いから不思議。カレシは細いL字型の屋根のないデッキが気に入った様子。その上のペントハウスは120平米で、真っ先に見たキッチンが窮屈そうで、こりゃダメだ・・・。

それにしても、新居探しは都市計画とか人間の心理とか、いろいろとおもしろい発見がある。たとえば、築10年前後の建物には「4階」がない。末尾が「4」のユニットもない。昔は12階の次は14階になるビルがあちこちにあったけど、顧客層が変わった今は3階の次は5階、3号室の隣は5号室ということになる。というのも、「4があるとアジア人に売れないから」。中国系の人たちはかなり迷信深いと言われているけど、市場を動かしている中国系に売るためには「4」はタブーということらしい。(そういえば、日本にいた頃、近所にあった貸車庫に「4番」がなかったな。)気に入った物件のある建物には「4号」がないし、4階も13階もない。13階がないというのはアジア系、西洋系の両方の市場をヘッジしているということか。

立地があまり治安の良くない地区なので興味半分で見に行ったメゾネット形式のペントハウスは、家具類一式も鉢物もぜんぶ込みという希望価格。上下を合わせて162平米、ルーフデッキは83平米でさすがに圧巻。でも、ソファやダイニングセット、ベッド、ナイトスタンドは所有者が置いて行ったそうで、かなりの高級品。でも、戸棚には何足も靴が残っていたり、未使用のトイレットペーパーがあったり、何じゃ、これという感じ。売り手のエージェントに聞いたら、所有者は永住者じゃなくて、奥さんが妊娠したので急遽一家で香港に帰ったとか。急遽って、ほんとに夜逃げみたいに取るものも取りあえずという感じで、しっくりしない。何からか知らないけど、もしかしたらほんとに「逃げた」のかも。ちょっとしたミステリー・・・。

引越し作戦が始まってまだ数週間だけど、市場情勢はかなり急激に変化しているらしい。何年ぶりかで売り手市場に転じつつあるそうで、ボロ家にすごい値がついている。まあ、そこで「もっと上がるんじゃないか」と欲の皮を突っ張らせたりすると潮時を見誤りかねないけど、沖のかもめは教えてくれない。ハイゲート地区の物件が一番気に入ったので、売り手が受け入れるかどうかわからないけどオファーを出すことにして、いよいよ我が家を売り出す相談にかかる。新聞もテレビもバンクーバーは「4年ぶりの売り手市場」と騒いでいる。ポールが提案する価格を見て「その値段でほんとに売れるのか」と相変わらず懐疑的なカレシ。公定評価額の4割増の数字だから無理もないか。ポールに言わせると立地条件が良すぎるくらいだから提示価格より高値のオファーがあっても驚かないって・・・?

そうこうするうちに、裏のブロックで売りに出ていた家が売れたと言うニュース。一丁先の築15年の家はすごい値段だったのに1週間足らずで売れたし、このぼろ家も「売家」の看板を立てて3週間であっさり希望価格以上で売れたということで、いくら戸建てでも、築60年のボロ家を億で買う人はいないと思うから、買い主はたぶん建売業者だろうな。前世紀の日本のバブルのような様相だけど、膨らみ過ぎと言われながら一向に弾ける気配がなくて、逆に加熱しているのは海外から投資家や移民が入って来るから。まあ、どっさり抱えて来たお金はまずどこかにpark(一時駐車)する必要があるわけで、そこで一番安全なのは銀行や株じゃなくて不動産。で、大金持は商業ビルを買い、小金持は高級住宅地の豪邸を買い、プチ小金持はちょっといい地区の新築戸建てを買い、庶民はコンドミニアムを買う、というところ。特に中国人は新築好きなんだそうで、ちょっと古いけど手入れの行き届いた「素敵なおうち」には興味がないらしい。

そして3月も半ば。引っ越し大作戦のボールが転がり始めて2ヵ月弱。まだ2ヵ月しか経っていないというべきか、もうあっという間に2ヵ月経ったと言うべきか、今現在、我が家はまだ売りに出ていないし、転居先も決まっていないけど、ワタシとしては自分でできるだけの宿題をやり尽くしたと思うから、後は最善の結果になるのを祈り、そうならなかったときの対応を考えておくしかない。学歴も人脈も何もないワタシが生まれた文化や言語は違う社会で40年生きて来て、25年間おひとり様ビジネスで培って来た(はずの)「状況を客観的、総合的に見る目」と「妥当なリスクを恐れない自信」がどこまで役に立つのか、ちょっとばかり(かって意図的にやり過ごした)大学入試の結果を待つような気分でもあるかな。