廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

渡欧後のマスターピース

2020年04月09日 | Jazz LP (Steeplechase)

Kenny Drew / Duo  ( デンマーク Steeplechase SCS-1002 )


出歩くことなく家にいる時間が長いと心身共に疲れないせいか、朝はまだ暗い時間帯に目が醒める。ごそごそしているうちに空が少しずつ明るく
なってくる。そこでアンプの灯を入れて、少し時間を置いてからこのスティープルチェイス盤に針を落とす。小さめの音量で聴くともなしに聴いて
いると、今までは感じなかった新しい印象が湧いてくる。音楽というのは環境や聴く時間帯によって感じ方が変わることがよくある。

明け方に聴くケニー・ドリューとペデルセンのデュオは、まるでECMの音楽のように聴こえた。これまではそんな風に感じたことは一度もなかった。
ケニー・ドリューは1961年に渡欧し、93年に亡くなるまで欧州で暮らした。結局、アメリカでは満足な評価を得ることができなかったからだ。
そんな彼が73年に録音した本作には、アメリカ音楽の匂いはない。でも、ネイティヴな欧州ジャズでもなく、どっちつかずの印象だったが、
時間を変えて聴くとまるで欧州土着の音楽のように聴こえる。不思議なものだ。

ケニー・ドリューがアメリカでパッとしなかったのは、ある意味、当然だったように思う。ピアニストとしての個性が弱く、誰が聴いてもケニー・
ドリューだね、とわかるピアノではなかった。リーダー作はそこそこ残ってはいるものの、どれも音楽的インパクトという意味では弱かった。
レコーディング・アーティストという感じだったのかもしれない。

そんな彼が欧州に新天地を求めたのは良かったんじゃないか、と思う。アメリカで受けていたような差別もひどくはなかっただろうし、
落ち着いて音楽活動できたようだ。現地の雰囲気にうまく溶け込んだ演奏をしているように思う。ペデルセンも余裕をもってドリューに
寄り添っており、ここでの音楽的な完成度は高い。録音も良好で、気持ちよく音楽に浸ることができる。現地での評価も良かったようで、
年1回のペースで第3集まで制作されている。この時期、このメンバーでしかできなかった音楽が記録されたのはよかった。


コメント
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