Bill Evans / What's New ( 米 Verve V6-8777 )
管楽器のバッキングで終わらせるような凡庸なピアニストではない、というコンセンサスからワンホーン・カルテットのようなフォーマットで録音を
一切させなかったヘレン・キーンが、敢えてジェレミー・スタイグを連れてきたのは、スタイグが普通の管楽器奏者ではなかったからだろう。
綺麗にメロディーを吹いて済ませるだけの管楽器などエヴァンスの音楽には必要ない。エヴァンス以上にメロディーを歌わせる奏者などいないからだ。
このアルバムのコンセプトはあくまでもエヴァンスとスタイグの互角な取っ組み合いで、静と動の対比が生み出す何かを期待したものだった。
スタイグがエモーショナルになればなるほど、ピアノの美しい音の存在感が際立っていく様子が実に生々しく録られており、コンセプトの正しさが
このアルバムの仕上がりの高さで証明されている。孤高のピアノとインプロの興奮がスタンダードというわかりやすい素材を使って非常に上手く
提示されていて、稀に見る傑作に仕上がった。このアルバムは昔から名盤100選の常連だが、この見立ては全くもって正しいと思う。
エディ・ゴメスのベースも見事で、"Autumn Leaves" のような速い演奏では彼のベースがリズムを先導しており、素晴らしい。ベース奏者を重視
していたエヴァンスが長くパートナーとして傍に置いたのがよくわかる。
ここにはドラッグで弛緩した表情のエヴァンスはいない。懐かしい "Portrait In Jazz" の頃のエヴァンスがいる。キリッと引き締まって無駄のない、
触れると指が切れるようなフレーズばかりで、先祖返りしたエヴァンスが聴ける。それを引き出したのはスタイグであることは言うまでもない。
この時期のエヴァンスは音数が多く、それが集中力を欠いた印象を与えるのが欠点だったけれど、ここでは音数をグッと減らしたことでかつての
エヴァンスらしいフレーズが蘇っているのが落涙ものだ。聴き進むにつれて、エヴァンスのピアノばかりを追い駆けている自分に気が付く。
どの楽曲も素晴らしく聴き所満載だが、私は最後に置かれた "So What" が昔から好きだ。マイルスが描いた世界とはまた違った風景が見える。
その多様性に心惹かれる。ジャズという音楽は素晴らしい、とこんなにも素直に思わせてくれるアルバムも珍しい。