The Mastersounds / Play Compositions Of Horace Silver At The Jazz Workshop ( 米 World Pacific WP 1284 )
ホレス・シルヴァーの音楽は日本人の心には響かないらしい。優れた作曲家として佳作をいくつも書いているにもかかわらず、作曲家として語られる
ことは皆無だ。なぜだかはわからないが、ジャズの世界ではミュージシャンをプレイヤーとしてしか見ようとしない傾向が強い。元々使われる楽曲は
単なるヴィークルであって、アドリブが音楽の中心だからかもしれない。でも、音楽なのだから、楽曲の良し悪しは重要なことだと思う。
そういう傾向があるから、音楽への評価も実際に演奏されている内容よりも、参加しているミュージシャンの名前に左右される。ハンク・モブレーが
参加しているから、ソニー・クラークが参加しているから、という話がメインになりがちで、彼らの演奏パートにのみスポットが向けられて、肝心の
音楽全体の賞味はどこかへ置き去りになることが多い。だから、有名人が入っていないと見向きもしないし、まともに鑑賞もしないし、楽しむことも
できない、ということになる。名前に頼らなければ、興味も持てないし、何も語れない。
そういう感じだから、このグループが陽の目を見ることはないんだろうし、このアルバムも興味を持って聴かれることはないんだろうと思う。
せいぜい、パシフィック・ジャズ・レーベルの完全コレクションを目論むコレクターが最後に仕方なく買う、というのが関の山なのかもしれない。
なんとも気の毒な話だ。
シルヴァーの代表作である "Nica's Dream" や "Doodlin'" も入っているけれど、このアルバムを聴けば "Enchantment" が素敵な曲だということを
再認識できるし、"Buhaina" という知られざる楽曲(私はブルーノートの10インチを聴かないので、この曲を知らなかった)がオリジナルの
ヴァージョンの粗く稚拙な印象を大きく覆す洗練された楽曲へと様変わりしていることに驚かされる。この楽曲のポテンシャルを上手く掴み
取った演奏で、このグループのセンスの良さがよく出ている。
ブルーノートのレコードだけを聴いてホレス・シルヴァーを理解した気でいるのは、おそらくは大きな間違いである。