Russ Freeman / Russ Freeman and Chet Baker, "Quartet" ( 米 Pacific Jazz PJ-1232 )
世間ではなぜか誤解されているようだけれど、このレコードはチェット・ベイカーのレコードではない。ラス・フリーマンのレコードだ。
筆頭に記載されているのはラス・フリーマンだし、収録されているのは2曲を除き、すべてが彼の書いたオリジナル作。裏面の写真も彼が先頭だ。
タイトルやジャケットにチェットが入っているのは、当時の彼の人気にあやかってのことだろう。その方がレコードが売れるからだ。
内容もチェット・ベイカーの音楽とはほど遠く、普通の西海岸の乾いた軽快なジャズで、やはりシェリー・マンが入るとこういう音楽になるんだなあ
と思う。そういう意味では、この人は西海岸のアート・ブレイキーと言っていいかもしれない。音楽を自分色に染めてしまう。
ラス・フリーマンはシカゴ生まれだが、西海岸でクラシック音楽の教育を受けていて、音楽の基礎がある人。オリジナル曲にも優れたものがあり、
キース・ジャレットが "Paris Concert" で取り上げた "The Wind" が最高傑作。あの物悲しく美しい曲を聴けば、このピアニストの実像が少しは
理解できるのではないだろうか。このアルバムでも "Summer Sketch" のような印象的な楽曲を残しており、チェットやペッパーの単なる伴奏者
という認識だけで終わらせてはいけない人だと思う。
一連のパシフィック・ジャズ・レーベルでの録音が一段落した後は、ジャズ界の大きな変化に伴って西海岸のジャズは見る影もなく衰退する。
その影響でラス・フリーマンの姿はレコードの世界からはしばらく消えてしまう。映画やTVなどの産業は盛んな地域だったから、音楽の仕事は
いくらでもあっただろうけど、ジャズ・ピアニストとしてカムバックするのは80年代以降になってからだった。
有名な割には、あまり正しくは理解されていない人だろうと思う。我々にはごく限られた枚数のアルバムでしか聴くことができないわけだがら、
もう少し丁寧に聴いていきたい。