John Coates.Jr / Alone And Live At The Deer Head ( 米 Omnisound N 1015 )
キース・ジャレットが唯一影響を受けたピアニスト、として有名になったジョン・コーツ Jr だけれど、本人的にはこういうのはどうなんだろう。
キースは1人でよくこの人のライヴを観に行っていたというし、わざわざECMからこの Deer Head Inn でのライヴ盤をリリースしているくらいだから、
相当な想い入れがあったのは間違いないようだ。
実際に聴いてみると、どこからどう聴いてもキース・ジャレットにしか聴こえない、というか、キース・ジャレット以上にキース・ジャレットらしく
聴こえる訳だけれど、コーツ本人はキースの演奏を聴いたことがなかったとも言われている。まあ、本当かどうかはわからないけれど(こういう話は
よくあるので)、もし本当なんだとしたらこれも相当頑固な話である。
収録された楽曲のすべてがコーツ本人のオリジナルで、ソロ・ライウで、アメリカのフォーク音楽が土台になっていて、ということで、これはまんま
ケルン・コンサートのデラウェア版という感じだ。発売時期も隣接していて、片やワールド・ワイドでエヴァーグリーンな歴史的ビッグ・セールス盤、
もう一方は片田舎のローカル・マイナー盤、それでいてどちらも同じルーツとスピリットから生まれた素朴なアメリカン・ミュージックだという
この奇妙な既視感は一体何なんだろうと思う。
結局のところ、キースがECMでやろうとしたのは、自身のアイデンティティーであるアメリカの大衆音楽(フォーク音楽やジャズのスタンダード)
のヨーロッパ大陸他への壮大なカウンター・アタック劇だったんだなあ、とこれを聴きながら思うことになる。
このアルバムがリリースされた77年と言えば、アメリカへの幻滅を歌った "Hotel California" が世界を席巻していた年。そんな頃に、B面2曲目の
"Homage" のような幻想的な曲がペンシルベニアの田舎町でひっそりと鳴っていたんだなあと思うと、不思議な気分になる。