Chet Baker / Four ~ Chet Baker in Tokyo ( 独 Paddle Wheel K28P 6495 )
晩年のチェットの最良の姿を捉えた傑作の1つだが、「晩年のチェットは素晴らしい」のは当たり前として、このアルバムが特に傑出しているのは、
チェットの音楽観を完璧に表現するハロルド・ダンコ率いるバックのトリオのおかげだ。このトリオ抜きでこの素晴らしい音楽は成立しない。
そう思いながらも、ハロルド・ダンコのアルバムは1枚も聴いたことがないことに気が付いた。ここでのピアノのタッチからヨーロッパの人だとばかり
思っていたが、アメリカの人だということも最近になって知った。端正なタッチで美しい音のピアノを弾く人だ。いずれ猟盤生活の日々が再開したら
ぼちぼちと探してみなければなるまい。
チェットは晩年になってマイルスの楽曲を頻繁に取り上げた。ここでも往年の名曲を元気に演奏している。年老いて枯れたチェットがマイルスの曲を
好んでやっているというところに感じ入るものがある。それはまるでマイルスに向かって何かを語りかけているかのように思える。
"Broken Wing" や "I'm A Fool To Want You" の何かの深淵を覗き込むような表現に慄きながらも、繊細極まる上質な質感にこれがライヴ演奏なのか、
と信じ難い気持ちになる。遠くから包み込むように湧き上がる観客の拍手が、会場のいい雰囲気を醸し出している。
独特の美しいジャケットの意匠、素晴らしい音場感など、内容以外の部分でも満点の仕上がりで、世界に誇るべきメイド・イン・ジャパン。
チェットを最後まで愛し続けた日本人だからこそ出来た、本当に素晴らしいアルバムである。