廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

グランツの期待に応えた素晴らしい仕上がり

2020年04月21日 | Jazz LP (Verve)

秋吉敏子 / The Many Sides Of Toshiko  ( 米 Verve MG V-8273 )


Storyville盤を月とするなら、こちらは太陽のようなアルバム。スタンダードをプログラムのメインに据えた、真っ向勝負の傑作。バド・パウエルの
作品群を除いて、ヴァーヴが作ったピアノ・トリオのアルバムでは3指に入る出来だと思う。この時期に活躍したパウエル・マナーのピアニストたち
とは一線を画した新鮮な感覚でピアノを全力で弾き切っている様が圧倒的に素晴らしい。

我々にとっては無名のベース(ジョン・チェリコ)とドラム(ジョン・ハナ)の演奏の上手さに驚かされる。単なるピアノの添え物としてではなく、
まったくの互角の演奏をしているので、音楽の躍動感がハンパない。チェリコのベースはレイ・ブラウンだけが第一人者ではないことを教えて
くれるし、ハナのブラシ・ワークは音楽に魂を吹き込んでいる。演奏の質は奏者の有名・無名は関係ない。そこで聴ける音楽がすべてである。

スタンダードは誰かの物真似ではなく、しっかりと独自の演奏をしているし、それに留まらずにオリジナルの楽曲も取り入れていて、内容の新鮮さを
常に意識した作りになっている。アルバム制作にあたり、入念な準備がされている。

レコードの音も完成したモノラル・サウンドが素晴らしく、輪郭が明確でソリッドな音が分離よく鳴っていて、このトリオの実力を余すところなく
伝えてくれる。ヴァーヴのサウンドは全般的に平面的で面白味のない傾向にあるけれど、それでもこのアルバムは演奏の良さががきちんと
伝わってくる。

そういう風に丁寧に作られたことがよくわかるアルバムで、それは秋吉敏子が受けていた厚遇の度合いが、枚数こそ少ないものの、当時ヴァーヴが
契約していた他の多くのアーティストたちと同じだった、という事実を物語っている。その期待に応えた、素晴らしいアルバムだ。


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