廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ルディー・ヴァン・ゲルダーはビル・エヴァンスをうまく録れたか

2020年04月02日 | Jazz LP (Verve)

Bill Evans / Intermodulation  ( 米 Verve V-8655 )


この作品は1966年4~5月、ニュー・ジャージー州イングルウッドのヴァン・ゲルダー・スタジオで録音されている。録音技師はヴァン・ゲルダー、
技術監督はヴァル・ヴァレンティンとなっている。こういう場合の実際の録音への2人の関与度合いはよくわからないけれど、盤面に "VAN GELDER"
の刻印がある以上は、一旦はヴァン・ゲルダーの録音とカッティングということで話を進める。

MGM時代のヴァン・ゲルダー録音は、優れたものもあることはあるが、それでも概ね冴えないものが多い。ヴァン・ゲルダー信奉者達も、この時期の
彼の仕事への言及は避けて通る。つまり、愛情故の迂回、ということで、貶すのは嫌だということだろう。同時期のインパルスでの録音に見られる
圧巻の仕上がりを考えると、同じ人物の仕事とは思えない内容に首を傾げざるを得ない。

ただでさえピアノの録音とは相性が悪いところにMGMという環境が重なって、果たしてビル・エヴァンスという最高のピアニストをどう録ったのか、
については1度評価しておく必要があるだろうと思う。

結論から言うと、ヴァン・ゲルダー・ブランドにはそぐわない、普通の音と言わざるを得ない内容だ。別に音が悪いということではなく、あくまで
ヴァン・ゲルダーの有難みは何もない、という話である。ブルーノート時代のくすんだ音はいい悪いはともかく、1つの個性だったと思うけれど、
ここで聴かれる音は没個性的で、拍子抜けするくらい普通の音だ。なぜそうなっているのかはよくわからない。ヴァル・ヴァレンティンの影響かも
しれないし、クリード・テイラーの影響があるのかもしれない。ヴァン・ゲルダーは、ブルーノートの音はアルフレッド・ライオンが望んだ音だ、
と語っているので、本人の名誉の為に言うと、ここでの音もそういうことなのかもしれない。

このアルバムは "Undercurrent" の二番煎じ扱いで、まともに評価されているとは言えない状態だけれど、私はこのアルバムが好きだ。"Angel Face" や
"All Across The City" という名曲が入っているし、演奏のクオリティーはまったく落ちていない。素晴らしい内容だと思う。

にもかかわらず、先の評価に甘んじているのは、ひとえに録音の凡庸さが原因だと思う。インパクトがなく、演奏の良さをまったく表現できていない
この音場感の悪さが足を引っ張っていると思う。"Undercurrent" はそれなりにガッツのある音で鳴って、演奏の良さがうまく表現できている。
初版で聴いてこの印象なのだから、後発盤だとおおらくその傾向はより顕著なのではないか。まあ、ステレオ盤を聴いたことがないので、本当の
ところはよくわからないけれど、傾向は変わらないだろう。

MGM時代のエヴァンスのアルバムは、音楽家として前向きに取り組んだ内容が多く、実り多き時代だったと思う。ところが、多くの聴き手には
そう受け止められているとは言い難い。話題の中心はいつまでたっても "Waltz For Debby" 止まりである。でも、その原因を作っているのは、
MGM時代のサウンド作りのまずさにあることも事実だろう。今となっては修正がきかないこの問題の影響は根深いものがある。


コメント
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