写真は民芸品市場として名高いサン・フアン市場で売られていた「モリニーニョ」(メキシコシティにて)。チョコレートラテに欠かせない棒であることを、このときは知らなかった。
ただ、同じ並びにでんでん太鼓やコマといった、日本人から見ると懐かしい玩具が並んでいたので、メキシコのおもちゃ売り場としか考えていなかったのである。そこに、みたことのない不思議な装飾の棒を見つけ、メキシコの子どもの独特のおもちゃと思って激写したのであった。
ただ、カナダの先住民が敬うトーテムポールのようにも装飾された呪術的な文様のものを後にチョコレートラテ店で目撃したことを考えると、モリニーニョは、なにか神聖な儀式に使う棒が、子どものおもちゃとしても伝承されている可能性もある。
となると、日本の子どものおもちゃと思っていたコマやでんでん太鼓などが、この市場に置かれている理由はなんだろう? どなたか知りませんか?
【アステカ帝国の言葉から】
前回の続きです。
チョコレートラテを作るための泡立て棒は「モリニーニョ」(molinillo)といいます。スペイン語には「モリーノ(molino)」という言葉があり、その言葉の派生語とされています。モリーノの意味は「小さい粉挽き器」。そのため、モリニーニョは「スペイン式ミル」と訳されたわけです。
実際にスペイン語辞書を引くと「molinillo」の項目に「molinillo de café 」があり、コーヒーミルと書かれていました。
ところが実態はどう考えても粉に挽くことはなく、ただかき混ぜるだけです。
このことに疑問を持った学者がいました。
レオン=ボルティーリャ博士はかつてのアステカ帝国の公用語だったナワトル語の
「振り回す、揺する、または動かす」という意味の「モリニア」の名詞化した「モリニアン」がクレオール化したものではないか、と推測しています。
(ソフィー・D・コウら著、樋口幸子訳『チョコレートの歴史』(河出書房、1999年)
上記の説を見つけたとき、私はようやく納得できました。
あの不思議な形のモリニーニョはスペイン人がアステカの不思議な飲み物を泡立てるために持ち込んだ、というのが定説ですが、そもそもスペインには泡立て器「モリニーニョ」はないのです。それにスペイン人がただ泡立てたいと思っただけならば、そんなに複雑な彫刻を施す必要はありません。ヨーロッパ生まれの調理器具は案外、シンプルなものです。
言語の成り立ちを素直に考えれば「モリニーニョ」は、アステカの人々がカカオに敬意を表して、生み出した道具のほうが真実に近いのではないでしょうか。形が美しく、かき混ぜる目的にしては不要なほど手が込んでいて、呪術的な雰囲気がなんとも魅力的! ああ、買っておけばよかった!
(カカオの章、おわり)