【突然のプロポーズ】
やがて川岸に張り出した屋根付きの木製テラスにそっと着岸。テラスでは所せましと集まったおそろいのフラダンスの衣装のような服を着た老若男女の村人が小さなギター(ウクレレより低音)に合わせて歌って踊って船の客を迎えてくれました。
ここは川下りの最深部らしく、船の客が彼らの踊りにつられて降りて、一緒に踊ったり、土産物を買ったりして楽しむことができます。その間に乗っていた船はUターン。テラスに再着岸し、元来た川を戻る、という構成になっていました。
見ると奥の対岸にも同様の踊り場テラスがありました。そこでも同様の衣装を身に付けた人々がいて、船が去ったあとなのか、ぐったりと横になっています。
カラクリが見えると、目の前の踊りが気の抜けたサイダーのようにしか感じなくなる切なさ。
ひたすら楽し気に踊るというのは、たいへんなお仕事なのだと感心してみたり、小さな子供まで踊っているのは休日だからなのか、などと考えてみたりしながら、私はUターンの順番待ちの船の上にいました。ともに来た家人はみなと踊りながら下船し、カメラ片手に撮影までしてノリノリです。
と突如、にぎやかだった踊りが急に静かになりました。見ると踊りの輪の中心に船の観光客が二人いて、若い男性がキラリと光るダイヤ?の指輪が置かれたケースを掲げて、女性の前にひざまずいています。フィリピン人カップルのようです。
みながかたずを飲んで見守ります。聞こえるのは対岸のテラスの踊りの音と鳥の声。どれほどの時が経ったのか、女性は我に返って、小さなハスキーボイスで
「yes」
指輪を受け取り、男性に抱きつきました。その瞳には涙が光っていました。
たちまちわっと起こる歓声と拍手。自然発生的に音楽が奏でられテラスにいた村人たちの本物の喜びの歌と舞いが爆発し、観光客の我々も口々におめでとう! バンブーダンスも始まりました。何も言わない人も惜しみない拍手と笑顔。誰もが幸せオーラに包まれました。
こうしてけだるい川下りが一転して祝宴のクルーズに。なんと対岸の別のクルーズ船にも話が伝わったのかこちらを向いて、笑顔で手を振り、拍手をしています。
帰りの船は、作戦成功とばかりに穏やかにほほ笑むプロポーズに成功したばかりの若い男性とその友達。その前には席に着いて、しみじみと指輪をした手を見つめつつ、うれし涙でほほえみながら、その横にいる両親や女友達たちから手を握られたり、肩に手を載せられたりして祝福を受ける女性。
それを見た乗客全員がほほえみながら、カップルを見つめて、幸せオーラを満喫するという夢のようなひと時を過ごすことができました。
(つづく)