【死後も家族の中心に】
これら大きな石の墓の中は土葬なので、むくろが横たわっているはず。それを遠ざけるのではなく、さもその人がいるかのように一族の輪に加えて宴会でも開いているかのよう。なかにはいつくしみのほほえみを浮かべて、土葬墓をなでるようにして語り掛けている若い男性もいました。なんだか胸が突かれて、ジーンときました。
墓地脇の自動車道には、たくさんの露店が並び、いたずら好きそうな小学生くらいの男と子グループがアイスキャンディーを買って、うれしそうに食べています。この雰囲気はかつての日本の神社の祭礼のよう。花かごや蝋燭が売り物のメインですが、これに金魚売りでも加わったら、日本のお祭りみたい。
じつはフィリピンでは、11月1日の諸聖人の日(All Saint Day)を中心にその前日にご先祖の魂が現世に戻り、2日には、また還っていく。その間、場所によっては大花火を打ち上げたり、露店が出たりといった大きなお祭りになるのだとか。日本のお盆+七夕祭りまたは秋の祭礼がくっついた感じなのでしょうか?
すごく清らかで、安らかで明るい空気に満ちた特別な空間でした。この前日、テレビでドゥテルテ大統領が地元に帰って墓参りをした、というニュース映像がテレビで流れていましたが、この時期はフィリピンの多くの地域で見られる光景なのです。
墓地でお菓子を買うこどもたち
【コロナ禍の現在】
ところが現在、フィリピンでは新型コロナウイルスで亡くなった人は12時間以内に火葬するように義務付けられているそうです。フィリピンの首都であるマニラの市長は今年8月、
「亡くなった悲しみの中、すぐに火葬代を支払う必要があるのは気の毒だ」
と無料で火葬を引き受けることを決定しました。火葬費用は6万ペソ(12万円以上)とかなり高額。(日本の火葬費用より若干、高め。物価から考えると相当高め)
なにより死者の復活を信じるカトリックの国・フィリピンでの火葬は、祭りの意味を変えるほどのいたみに違いない。つまり長い間に築かれた死者への弔いを、パンデミックはさせてくれない。それだけに火葬代無料は市長の英断といえるでしょう。
(つづく)