(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0297JapanAbuDhabi.pdf
3.アブダビの増産計画とINPEXの陸上鉱区参入の可能性
UAEの2012年の石油生産量は338万B/Dで世界第7位である 。その殆どをアブダビが占めているが、そのアブダビでは現在の生産能力280万B/Dを2017年前後までに350万B/Dに拡大する計画が進められている 。これを主要油田毎に見るとBu Hasa油田(陸上、現有生産能力55万B/D→目標生産量73万B/D、時期2017年、以下同じ)、Bab油田(陸上、35万→43万B/D、2017年)、上部ザクム油田(海上、55万→75万B/D、2016年)、下部ザクム油田(海上、30万→42.5万B/D、2016年)、ウムルル海上油田(0→10.5万B/D、2016年)などである(数値はいずれもJOGMEC「石油・天然ガス レビュー2013年11月号より」)。
海上油田についてはいずれも利権更新期限が2018年以降であるため、上記の増産工事はADMA-OPCO、ZADCOなどいずれも現在のコンソーシアムで実施することになる。しかし陸上油田は事業主体であるADCOの利権が今年1月で失効しており、しかも上記2 IIで触れたとおり、鉱区が4分割される見込みのため個々の新しい事業体が決まるまで本格的な増産工事に着手できないであろう。
そのような状況下で現在国際石油企業(IOCs)10社による提案が検討中である。これら10社は大きく分けると、(1)操業経験のあるExxonMobil、BP、Shell、Totalの国際石油企業4社、(2)アブダビの操業経験は無いが欧米系国際石油企業のEni(伊)、Statoil (ノルウェー)、Occidental(米)、そして(3)CNPC、INPEX、韓国石油公社のアジア勢3社、(このうちINPEXは海上油田で操業実績を有しているが、CNPC及び韓国石油公社は経験が無い)の三つに分類できよう。
これら10社のいずれがADNOCの事業相手に選ばれるかは予断を許さない(鉱区四分割で各鉱区1社ずつと言う報道の通りであれば10社中の4社となる)。利権パートナーの選定は技術的な知識と経験の有無だけではなく、政治力の介入する余地が大きいからである。あえて応札各社の長所短所を考察すると以下の点が指摘できそうである。
まず技術的な知識と経験の面で見ると現在陸上鉱区で操業中の上記(1)の4社が有利であることは否めない。また(2)の欧米グループ及び(3)のINPEXとCNPCも豊富な国際経験がありパートナーとしての資格に問題はなさそうである。韓国石油公社だけが経験不足を問題視されるであろう。しかし今回の増産プロジェクトでは一部油田への地下水・海水あるいはガス圧入による二次回収(tertiary recovery)が予定されている 。生産がピークを過ぎ生産量が減退している油田では二次回収が必須である。この点では長い操業経験のある欧米企業が有利であろう。
参入意欲の面ではメジャーと呼ばれるグループ(1)の国際石油企業群の意欲が人一倍強いと言えそうである。何故ならここ数年の各社の業績資料を見ると各社とも自社権益の石油生産量がじり貧だからである。原油価格の高騰により売上、利益はいずれも最高水準であるものの、生産量は毎年下落する一方なのである 。原因は近年産油国が石油利権から外国企業を締め出したり(ベネズエラの例)、或いは単なる操業請負業者にとどまるケース(イラクの例)が殆どであり、国際石油企業は自社権益の生産量が減少しているからである。この点アブダビの場合は従来通り外国企業に40%の利権が与えられる見込みであり(残り60%はADNOC)その分を自社原油にカウントすることができる。利益の大半を上流部門(原油生産)に頼る国際石油企業にとって自社原油を減らさないことは死活的に重要な問題と言えよう。
一方、アブダビ側の政治的判断を考えると問題は微妙である。まず国際政治力学の面で見ると、ペルシャ湾情勢は日常的に緊迫しておりアブダビ(UAE)のような軍事的に非力な小国は欧米(特に米国)の庇護が不可欠であろう。米国のオバマ政権は中東ペルシャ湾から太平洋への外交シフトを打ち出しているが、やはりバハレーン、カタールに米軍が駐留していることは大きな重しであり、UAEも米国に連れないそぶりはできないであろう。また利権更新にからみ英国首相或いはフランス大統領がトップセールスをかけた場合、UAEとしてもむげにはねつけられないことも考えられる。
ただ経済的側面から考えるとアブダビとしては今後間違いなく最大の顧客となる中国に加え、日本、韓国に対する供給ルートを拡大したいはずである。また現在アブダビは中日韓に対する石油販売をExxonMobilなど国際石油企業に依存しており余分な手数料を負担しているが、もしADNOCが直接これら極東3カ国に販売できるようになれば、手数料負担が軽減されアブダビと日中韓3カ国はウィン・ウィンの関係になる 。従ってアブダビとしては3カ国のいずれかにも利権を与えたいと考えるはずである。その場合は既に海上油田で実績のあるINPEXに有利な判断が働くのか、それとも新たに中国及び(又は)韓国を新たなパートナーに抱き込むのか、アブダビは微妙な判断を迫られることになる。
以上を総合的に判断すると今回のアブダビ陸上油田の新規利権獲得交渉はExxonMobil, BPが最右翼で、Shell, Total, Occidentalの欧米勢とINPEX, CNPCの日中勢の5社がこれに続くと考えるが果たして結果はどうであろうか?
(続く)
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