石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)石油・ガス開発をめぐり深まる日本とアブダビの重層的関係(5)

2014-02-03 | OPECの動向

 

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0297JapanAbuDhabi.pdf

  

4.IPICを介したコスモ石油とCEPSAの提携
 1月21日、コスモ石油はアブダビの国際石油投資公社(International Petroleum Investment Company, IPIC)の仲介によりスペインの石油企業CEPSAと「石油関連事業に関する戦略的包括提携合意契約」を締結した 。IPICはコスモ株式20%強を有する筆頭株主であり(但し名義はインフィニティ アライアンス)、同時にCEPSAの100%株主でもある。両社はIPICグループの一員なのである。この契約によりコスモ石油とIPSAは今後石油天然ガスの開発事業において共同で新鉱区獲得や事業拡大に協力することとなった。

 IPICは石油の余剰収入を基金としてアブダビ政府が設立した投資ファンドの一つであり、いわゆる政府系ファンドまたは国富ファンド(Sovereign Wealth Fund, SWF)と呼ばれるものである。アブダビの政府系ファンドとしてはIPICの他にもADIA(アブダビ投資庁)、Mubadalaがあるが、IPICは総資産653億ドル(SWF Instituteデータによる)を保有する世界17位の投資ファンドであり 、名前の通り世界の石油産業に対する投資を主たる目的としている。1984年に設立され会長はシェイク・マンスールUAE副首相(ムハンマド皇太子の実弟、故ザーイド前首長13男)である 。

 IPICは1988年にCEPSAの株式9.6%取得したのを手始めにオーストリアのOMV社にも投資、現在の両社の持ち株はCEPSA100%、OMV24.9%である。そして2007年にコスモ石油株式の20.8%を取得している。またIPICは石油化学分野では北米のNova Chemicals或いはオーストリアのBorealisの親会社でもある。なおかつては韓国Hyundai Oilbankにも投資していたがこれは2010年に売却している。

 コスモ石油は1984年に旧大協石油と丸善石油の精製部門を統合して発足、1986年に3社の合併により現在に至っている。1980年代前半は昭和石油とシェル石油の合併(現昭和シェル石油)、日本石油と三菱石油との合併(日石三菱)など石油業界が戦後最初の大型再編に走った時代であった。その後2000年代に再び石油業界に再編の嵐が吹き荒れ、日石三菱グループと共石・日鉱グループが合併、日本最大のJXグループが生まれている。この間、コスモ石油についても他社との業務提携・合併のニュースが流れたが、結局コスモ石油は2007年、子会社のアブダビ石油を通じてかねてから協力関係にあったアブダビの国家資本を受け入れた訳である。

 コスモ石油とCEPSAの提携が今後どのように発展するかはしばらく観察を続ける必要があろう。精製販売面では日本とスペインでは相互補完関係は乏しく、またアブダビにとって日本も西欧も成熟市場であり発展の余地は乏しい。従って提携の主目的はプレスリリースにもあるように石油ガス開発で共同鉱区の獲得を目指すなど上流部門の共同事業であろう。CEPSAはアフリカ、南米等でいくつかのプロジェクトを手掛けている。

 但し世界の石油天然ガス開発プロジェクトは極地、大深海など技術及び資金の両面でハードルが非常に高くなっている。また産油(ガス)国の権限もますます大きくなっている。このような中で資金力に乏しく技術的にもIOCs(国際石油会社)に見劣りするコスモ石油とCEPSAの立場は厳しいと言わざるを得ない。


 以上、アブダビ国内の鉱区利権問題及びIPIC/コスモ石油/CEPSAの資本業務提携問題について述べた。両者に共通しているのはアブダビ政府が米英仏各国の政治的影響力を弱め、またExxonMobil / BP / Shell / Total等の国際石油会社の支配力に対するカウンターバランスとして利用しようと考えていることではなかろうか。つまり欧米政府及び欧米系国際石油企業に牛耳られている現状を打破するため、重要な顧客である日中韓との連携を強めようとしているのである(勿論欧米政府と企業が最優先であることは間違いないであろうが)。だとすればアブダビの日本に期待するものはINPEXやコスモ石油等の個別企業と言うよりむしろ日本政府そのもののではないかと思われる。

(完)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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