石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

多様化する天然ガス貿易:BPエネルギー統計2015年版解説シリーズ(天然ガス篇24)

2015-08-20 | その他

(注)本レポートはブログ「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0353BpGas2015.pdf

 

7.天然ガスの価格(続き)
(かつてはEU、米国の方が日本より高かった時代もあった!)
(2)日本のLNG価格を1とした場合のEU、米国の天然ガス価格
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-5-G02.pdf 参照)
 ここで取り上げた日本とEUと米国の天然ガスの価格は日本とEUがCIF価格であり、米国はパイプラインの受け渡しポイントHenry Hubにおける価格である。従って3者、特に米国と日本を単純比較することはできないが、ここではその点を含んだ上で日本のLNG価格を1とした場合の2000年から2014年までのEU及び米国との格差を比較すると、まず2000年のEU年間平均価格は日本の0.61倍、米国は0.89倍であった。つまりEU価格は日本より4割安く米国価格は1割程度安かったのである。

 その後日本に対するEUの相対価格は上昇する一方米国の相対価格は下落、2002年には共に日本の0.8倍程度となった。しかし2003年には米国Henry Hub価格が上昇、日本との相対価格は1.18倍に逆転した。原油価格が安定したため原油にリンクした日本のLNG価格が低く抑えられたのである。その後も米国の価格は上昇、2005年には米国価格は日本の1.45倍まで格差が広がった。つまり2003年から2005年までの3年間は米国の天然ガス価格の方が日本のLNG価格より高かったのである。一方EUの対日相対価格も徐々に上昇し2005年には日本よりわずかに低い0.97倍になっている。ところが2006年になると今度はEU価格が上昇し、2006年、2007年の2年間はEU価格が日本価格を上回った。

 しかし2009年以降は日本の価格が急上昇したのに対しEU価格はさほど大きな変動が見られず、米国はシェールガスの開発が本格化し日本とは逆に価格が急速に下落した。その結果、2008年には日本を1とした場合EUは0.92倍、米国は0.71倍となり日本の価格が最も割高になっている。その後3カ国の価格格差は年々拡大し、2010年にはEUの相対価格は日本の0.73倍、米国は0.4倍となり、米国(Henry Hub)価格は日本のLNG CIF価格の半値以下になったのである。2014年時点では格差はさらに広がりEUは日本の0.56倍、米国はわずか0.27倍にとどまっている。大まかに言えば日本のLNG価格はEUの2倍、米国の4倍と言うことになる。

 今後この格差がどうなるか予断を許さないが、豪州、東アフリカ等世界各地で天然ガスの開発が進み、また米国のLNG輸出が開始されるとLNGのスポット価格は下がる可能性がある。またパプアニューギニア、豪州、モザンビーク、米国シェールガスなどのLNGプロジェクトに日本企業が資本参加することで安定的な価格と量の確保が可能となる。原油価格の動向次第では日本のLNG輸入平均価格が下がる可能性もあると言えよう(既に2014年の日本向けLNG価格にその予兆が見られる)。

 歴史を遡って見ると、LNGが本格的に市場に登場したのは1997年にカタールと日本の中部電力が長期需給契約を締結した時からである。この時、米国或いはヨーロッパにおけるパイプラインを介した天然ガス価格はLNG価格算定の参考にならず原油価格とリンクした価格体系が編み出された。

 1990年代後半は1980年代のOPEC支配の時代が終わり第二次オイルショック時には40ドル/バレルに達した原油価格が1998年には12ドル台にまで暴落し原油は市況商品とみなされるようになっていた。従ってこの時点でLNG価格を原油価格にリンクさせることは長期的な安定取引を望むカタール及び日本の双方にとってメリットがあったことは間違いなかったのである。

 現在のEU或いは米国との価格差をとらえて、日本企業のLNG取引の稚拙さを非難する声があるがそれはあくまで結果論と言えよう。エネルギー資源の無い日本にとって石油及び天然ガスを長期安定的に確保することが至上命題であり、その時々の価格の高低に一喜一憂することは余り意味のあることとは思えない。

(天然ガス篇完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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多様化する天然ガス貿易:BPエネルギー統計2015年版解説シリーズ(天然ガス篇24)

2015-08-20 | その他

7.天然ガスの価格(続き)
(かつてはEU、米国の方が日本より高かった時代もあった!)
(2)日本のLNG価格を1とした場合のEU、米国の天然ガス価格
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-5-G02.pdf 参照)
 ここで取り上げた日本とEUと米国の天然ガスの価格は日本とEUがCIF価格であり、米国はパイプラインの受け渡しポイントHenry Hubにおける価格である。従って3者、特に米国と日本を単純比較することはできないが、ここではその点を含んだ上で日本のLNG価格を1とした場合の2000年から2014年までのEU及び米国との格差を比較すると、まず2000年のEU年間平均価格は日本の0.61倍、米国は0.89倍であった。つまりEU価格は日本より4割安く米国価格は1割程度安かったのである。

 その後日本に対するEUの相対価格は上昇する一方米国の相対価格は下落、2002年には共に日本の0.8倍程度となった。しかし2003年には米国Henry Hub価格が上昇、日本との相対価格は1.18倍に逆転した。原油価格が安定したため原油にリンクした日本のLNG価格が低く抑えられたのである。その後も米国の価格は上昇、2005年には米国価格は日本の1.45倍まで格差が広がった。つまり2003年から2005年までの3年間は米国の天然ガス価格の方が日本のLNG価格より高かったのである。一方EUの対日相対価格も徐々に上昇し2005年には日本よりわずかに低い0.97倍になっている。ところが2006年になると今度はEU価格が上昇し、2006年、2007年の2年間はEU価格が日本価格を上回った。

 しかし2009年以降は日本の価格が急上昇したのに対しEU価格はさほど大きな変動が見られず、米国はシェールガスの開発が本格化し日本とは逆に価格が急速に下落した。その結果、2008年には日本を1とした場合EUは0.92倍、米国は0.71倍となり日本の価格が最も割高になっている。その後3カ国の価格格差は年々拡大し、2010年にはEUの相対価格は日本の0.73倍、米国は0.4倍となり、米国(Henry Hub)価格は日本のLNG CIF価格の半値以下になったのである。2014年時点では格差はさらに広がりEUは日本の0.56倍、米国はわずか0.27倍にとどまっている。大まかに言えば日本のLNG価格はEUの2倍、米国の4倍と言うことになる。

 今後この格差がどうなるか予断を許さないが、豪州、東アフリカ等世界各地で天然ガスの開発が進み、また米国のLNG輸出が開始されるとLNGのスポット価格は下がる可能性がある。またパプアニューギニア、豪州、モザンビーク、米国シェールガスなどのLNGプロジェクトに日本企業が資本参加することで安定的な価格と量の確保が可能となる。原油価格の動向次第では日本のLNG輸入平均価格が下がる可能性もあると言えよう(既に2014年の日本向けLNG価格にその予兆が見られる)。

 歴史を遡って見ると、LNGが本格的に市場に登場したのは1997年にカタールと日本の中部電力が長期需給契約を締結した時からである。この時、米国或いはヨーロッパにおけるパイプラインを介した天然ガス価格はLNG価格算定の参考にならず原油価格とリンクした価格体系が編み出された。

 1990年代後半は1980年代のOPEC支配の時代が終わり第二次オイルショック時には40ドル/バレルに達した原油価格が1998年には12ドル台にまで暴落し原油は市況商品とみなされるようになっていた。従ってこの時点でLNG価格を原油価格にリンクさせることは長期的な安定取引を望むカタール及び日本の双方にとってメリットがあったことは間違いなかったのである。

 現在のEU或いは米国との価格差をとらえて、日本企業のLNG取引の稚拙さを非難する声があるがそれはあくまで結果論と言えよう。エネルギー資源の無い日本にとって石油及び天然ガスを長期安定的に確保することが至上命題であり、その時々の価格の高低に一喜一憂することは余り意味のあることとは思えない。

(天然ガス篇完)

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   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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