石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

多様化する天然ガス貿易:BPエネルギー統計2015年版解説シリーズ(天然ガス篇23)

2015-08-19 | 今週のエネルギー関連新聞発表

7.天然ガスの価格
(三つに分かれるガス価格。日本と米国では4倍の格差!)
(1)2000年~2014年の天然ガス価格の推移
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-5-G01.pdf 参照)
 天然ガスの取引価格には通常US$ per million BTU(百万BTU当たりのドル価格)と呼ばれる単位が使われている。BTUとはBritish Thermal Unitの略であり、およそ252カロリー、天然ガス25㎥に相当する 。

 市場の自由取引にゆだねられた商品は通常価格が一本化されるものであるが(一物一価の法則)、天然ガスについては歴史的経緯により現在大きく分けて三つの価格帯がある。LNGを輸入する日本では原油価格にスライドして決定されている。巨額の初期投資を必要とするLNG事業では販売者(カタール・オーストラリアなどのガス開発事業者)と購入者(日本の商社、電力・ガス会社などのユーザー)の間で20年以上の長期安定的な契約を締結することが普通である。この場合価格も両者間で決定されるが、その指標として原油価格が使われているのである。

 これに対してヨーロッパでは供給者(ロシア、ノルウェー、アルジェリアなど)と消費者(ヨーロッパ各国)がそれぞれ複数あり、パイプライン事業者を介して天然ガスが取引されており、EU独自の価格体系が形成されている。また完全な自由競争である米国では天然ガス価格は独立した多数の供給者と需要家が市場を介して取引をしており需給バランスにより変動する市況価格として形成される。その指標となる価格が「Henry Hub価格」と呼ばれるものである。

 ここでは日本向けLNG価格(以下日本価格)、パイプラインによるEUの価格(以下EU価格)及び米国Henry Hub価格(以下米国価格)について2000年から2014年までの推移を比較することとする。なお参考までに百万BTU当たりに換算した原油価格も合わせて比較の対象とした。

 2000年の日本価格は4.7ドル、EU価格2.9ドル、米国価格4.2ドルであり、当時の原油価格は4.8ドルであった(いずれも百万BTU当たり)。EU価格が低く、日本価格及び米国価格はほぼ同じ水準で原油が最も高かった。この傾向は2002年まで続き、2003年には米国価格が一時的に日本価格、EU価格、原油価格のいずれをも上回った。

 2004年以降原油価格の上昇に伴い天然ガス価格もアップし、2005年の価格は米国価格8.8ドル、原油価格8.7ドル、日本価格6.0ドル、EU価格5.9ドルとなった。しかしその後2008年にかけて原油価格が急騰する中で日本価格とEU価格が原油価格を後追いする形で急激に上昇した中で、米国価格は横ばい傾向を示したのである。その結果2008年の原油価格16.8ドルに対し日本価格12.6ドル、EU価格11.6ドル、米国価格8.9ドルとなり、日本或いはEU価格と米国価格の格差は1.4倍に広がった。

 2008年の反動で2009年には原油価格が急落、日本、EU、米国それぞれのガス価格も下落したが米国の下落幅が大きく、日本価格及びEU価格は米国価格の2倍以上になった。2009年以降原油価格は再び急上昇したが、この時3地域の天然ガス価格は明暗を分けた。日本価格は原油価格に連動して上昇の一途をたどったのに比べEU価格は緩やかな上昇にとどまった。そして米国価格はさらに下落する傾向を示したのである。

 この結果、2014年の各価格は原油価格16.80ドルに対し、日本価格は16.33ドル、EU価格9.11ドル、米国価格は4.35ドルとなった。日本価格はEU価格の1.8倍、米国価格に対しては3.8倍である。日本の価格上昇要因がLNGの原油価格へのリンク及び原発事故によるLNG需要の急増であるのに対し、米国ではシェールガス増産による供給過剰と言う下落要因が働いた。その結果が日米で4倍近い格差をもたらしている訳である。

(続く)

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