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(再録)現代中東の王家シリーズ:サウジアラビア・サウド家(4)

2018-12-27 | 中東諸国の動向

 

初出:2007.7.2

再録:2018.12.27

 

(4)サウド家安泰のために:26人の王妃と36人の王子達

 アブドルアジズ(イブン・サウド)は、かつて軍事力の中核であったが今や獅子身中の虫となったイフワーン軍団を粉砕しアラビア半島統一を成し遂げた。1932年、彼はサウド家による王制支配を内外に示す「サウジアラビア王国」の樹立を宣言し、自ら初代国王に即位したのである。(図はサウジアラビア国旗)

 半島統一に至る過程でアブドルアジズは多くの部族と戦闘或いは和睦を行った。そしてサウド家に恭順の意を表した部族に対しては従来どおりの領地支配を認めた。アラビア半島は広大な砂漠にオアシスが点在する、まさに「砂の海に浮かぶ数多くの小島」であり、このような国土をサウド家だけで統治することは不可能だったからである。

 彼はこれら恭順した部族がサウド家に二度と反旗を翻すことがないように、また遠征当初から同盟を結んだ部族とは信頼関係をさらに深めるためにある手段をとった。その手段とはかれらと血縁関係を築くことであった。即ち彼に従う部族長の娘をアブドルアジズ自身が娶り息子或いは娘を生むことでサウド家と彼らとの絆を確かなものにしようとしたのである。

アブドルアジズのこのようなやり方は血のつながりを何よりも重視するベドウィンの流儀に適うものであった。日本の戦国大名やオーストリアのハプスブルグ家も勢力の維持若しくは拡大のために他家と積極的に姻戚関係を築いたが、サウド家の場合と少し意味合いが異なる。日本の場合は婚姻は形式的であり、むしろ人質としての性格が強いため子供を作るケースは少なかった。またハプスブルグ家の場合は、仏のブルボン家など他国の王家との連携を強める合従連衡の策として娘を嫁がせたのである。これに対しアブドルアジズは他部族の娘との間に子供(特に男子)をもうけることでサウド家を中心とする新たな血縁関係を作りあげ、サウド家を頂点とする一体感を新たに築こうとしたのである。勿論アブドルアジズがそのような婚姻政策を実行することができたのは、イスラーム教が複数の妻を持つことを認めており、またベドウィンが血族関係を何よりも重視したと言う風土的背景があったからである。

彼が実際に何人の妻を娶ったかは不明であるが、26人の女性に36人の王子を生ませたことはサウド家の家系図ではっきりしている。36人の王子は俗に第二世代と呼ばれアブドルアジズの後を継いでいる。同国の基本法で王位はアブドルアジズの直系男子と決められており、第二世代はサウド第二代国王以下アブダッラー第六代現国王まで年齢順に即位している[1]。サウジアラビアの王位継承問題を語る場合、第二世代の王子の年齢が重要な要素である。

しかしもう一つの重要な要素は王子の母親が誰であるか、と言うことである。36人の王子は、ある者は同じ母親から生まれた兄弟(同母・同腹の兄弟)であり、ある者は母親が異なる兄弟(異母・異腹の兄弟)である。王子は成人するまで母親の元で育てられるため当然同母の兄弟は異母兄弟に比べて結束が堅い。このため王室内の力関係を考える場合、各王子の母親が誰であるかと言うことが見過ごせない(*)。その最も有名な例がファハド前国王及びスルタン現皇太子などスデイリ家出身の母親から生まれた7人の同母兄弟、いわゆる「スデイリ・セブン」である[2]。第二世代の王子を語る場合は、彼らの生まれた順序(年齢)及び母親の系統が二つのキーポイントになるのである。
(*)家系図「アブドルアジズ初代国王の王妃とその息子達」参照

第二世代の子供達(即ち第三世代)を含めサウド家は今や第六世代まで誕生しており、1998年にAbdul Rahman bin Sulaiman Al-Ruwaishidが著したサウド家の家系図によれば、直系男子王族の数は約8百人に達している。彼ら8百人全員が王位継承権を有しているのである。同国は多産型であるため男子王族の人数はネズミ算式に増えていると考えられる。従って王子の数は現在では千人を超えているとみて間違いないであろう。彼らはアブドルアジズの直系男子であることを表すため、HRH(His Royal Highness)の敬称が与えられており、宮廷費用から相当な額の年金が支給されている[3]

かれら第三次サウド王朝の王族は「狭義のサウド家王族」であるが、これに対してアブドルアジズの兄弟や従兄弟の末裔など、アブドルアジズ直系以外にも多数のサウド家王族がいる。かれらにはHH(His Highness)の敬称を与えられており「広義のサウド家王族」と言える[4]。巷間でサウド家王族の総数が数万人と言われるのはこれら狭義・広義の王族を全て含めた場合を指しているのである。

(続く)

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

 

 

(再録注記)



[1] 現在の国王は第七代サルマン・ビン・アブドルアジズ国王(2015年即位)

[2] ファハド第五代国王は2005年に、またスルタンは2011年に死去している。サルマン第七代現国王はスデイリ・セブンの6番目の兄弟である。

[3] 王子の人数が増えたため、宮廷費の支給対象は限定されていると言われる。

[4] 「サウド家系図(Al-Saud)」参照。

http://menadabase.maeda1.jp/3-1-2.pdf

 

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