12月9日、サウジアラビアの首都リヤドでGCC6カ国の代表が集まり第39回サミットが開催された。上の写真はその時のものである。画面には6人が写っているが、読者はこの写真のどこかがおかしいことにお気づきであろうか。6人が写真に納まっているため一見GCC6カ国の代表それぞれが写っていると見えるが、実は右端の人物はサウジアラビアのムハンマド皇太子であり、中央のサルマン国王と合わせてサウジアラビアは二人、その他はGCC各国の代表である。つまりGCC6カ国のうちの1カ国の代表が写真に登場していない。
種明かしをすればそれはカタールからの代表なのである。カタールがGCCサミットに政府代表として派遣したのは外務担当国務相。昨年末のクウェイト・サミットを含めこれまでのサミットにはすべてタミーム首長自身が出席している。昨年6月にサウジアラビア・UAE・バハレーン及びエジプトがカタールと断交して以来、カタールはGCC内で孤立しており、特にサウジアラビアとは犬猿の仲である。そのためタミーム首長自身が今回のリヤド・サミットを忌避するのは理解できる。しかしれっきとした外務大臣(しかも王族)がいるにもかかわらず、カタールは格下の外務担当の国務大臣(非王族)を送り込んだ。上の写真でサルマン国王の両脇にいるのはクウェイト首長とバハレーン国王であり、左から二番目はUAE副大統領兼ドバイ首長、左端はオマーン外相でいずれも王族である。主催者のサウジ側がカタール代表をわざと外したのだろうか。カタール代表の国務大臣が自ら辞退したのかもしれない。真相は不明だが、いずれにしても会議でカタールが冷遇されたであろうことは想像に難くない。
カタールとサウジなど4か国が断交した後に開かれた昨年末のクウェイトサミットでは、カタールはタミーム首長が出席したのに対し、サウジアラビアは国王或いは皇太子ではなく外相が代表となっており今回と全く逆の対応となっている。サミット主催者のクウェイト首長は会議前に両者の仲介の労を取ったが面目をつぶされた格好であった[1]。そして今回は一方の当事者サウジアラビアが主催を務めた結果がこれである。両者の対立は今や決定的な段階にあると言えよう。
そもそもサウジアラビアとカタール両国間の摩擦の根は深く、遠くはカタールのアル・ジャジーラ放送によるサウジ王制批判報道に始まるが、最近ではサウジアラビアがシーア派イラン及びスンニ派のムスリム同胞団をテロ支援組織とみなし、カタールがこの両組織と密接な関係を有していると断定して、UAE、エジプトを巻き込みカタールと断交したことが対立の原因である。即ちカタール批判の理由がかつての報道の自由という民主的価値観から、テロをからめた宗教問題に変質したのである。民主的価値観は話し合いで妥協或いは解決が可能であるが、宗教問題による対立の解決は容易ではない。
実は両者の対立が表面化したのはGCCサミットだけではない。それはサミット直前に開かれたOPEC総会でカタールが脱退を表明したことである。カタールの石油相は脱退表明の記者会見において、同国のOPEC脱退は今後天然ガスの生産増強と市場確保に力を注ぐためであり政治的な意図はないと語っている[2]。石油相の発言に間違いはないとしても、政治的意図が全くなかったと信ずる者は少ないであろう。OPECはサウジアラビアが牛耳っており、特に最近では非OPEC産油国のロシアと減産、高価格維持で共同戦線を張る一方、OPECカルテルを非難し低い原油価格を望む米国トランプ大統領の意向を忖度して一時は増産の姿勢を示すなど、サウジアラビアの石油政策はOPECの他の加盟国の意向を汲んでいない。カタールはそれを苦々しく思い、OPECのメンバーであり続けることに疑問を持ったと言えよう。
サウジアラビアとカタールの関係は修復不可能な状況にある。カタールはOPEC脱退に続きGCC脱退に走り始めたと見て間違いなさそうである。
(完)
本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com