BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2019」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
1.世界の石油の埋蔵量と可採年数(続き)
(OPECにロシアを加えると埋蔵量シェアはほぼ8割に!)
(4)OPECと非OPECの比率
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G04.pdf参照)
既に述べた通り2018年末の国別石油埋蔵量ではベネズエラとサウジアラビアが世界1位、2位であるが、両国は共にOPECのメンバーである。また両国の他にイラン、イラク、クウェイト、UAE及びリビアの合計7カ国が石油埋蔵量の上位10カ国に名を連ねている(「1.世界の石油の埋蔵量と可採年数」参照)。非OPECで世界ベストテンに入っているのは3位カナダ、6位ロシア及び9位米国の3カ国であるが、このうちロシアはOPECと協調減産を行っており、現在同国とOPEC特にサウジアラビアは極めて緊密な連携を取り合っている。
この事実を埋蔵量の面で見ると、OPEC全加盟国の埋蔵量は10位以下のナイジェリア、アルジェリア等も合計すると1兆2千億バレルに達し、世界全体(1.7兆バレル)の72%を占めることになる。さらに埋蔵量世界6位のロシアを加えるとOPEC+ロシアの石油埋蔵量が世界に占める割合は全世界の8割近い78%に達する。
加盟国の中にはベネズエラのように埋蔵量の公表数値に水増しの疑いがある国もあるが、統計上で見る限りOPECの存在感は大きい。現在OPEC14か国の内12か国はロシアなど非OPEC10カ国と協調減産を行っているが、将来の生産能力を考えた場合埋蔵量の多寡は決定的な意味を持ってくる。この点からOPEC+ロシアの埋蔵量が世界全体の8割近くを占めていることはOPECとロシアが将来にわたり石油エネルギーの分野で大きな存在感を維持すると言って間違いないであろう。
1995年以降のOPECと非OPECの埋蔵量比率を歴史的に見ると1995年末はOPEC70%、ロシア10%に対しロシアを除く非OPECは20%であった。この比率は2000年末にOPEC+ロシア75%、非OPEC26%となり非OPECのシェアが増加し世界の4分の1を占めるに至っている。しかし2000年以降現在までは非OPECのシェアは毎年低下し、OPECのシェアが拡大している。これは既述の通りベネズエラが2008年から2010年にかけて自国埋蔵量を3倍以上増加させたことが最大の要因である。
前項(3)で取り上げたようにOPECのベネズエラ、イラン、イラク3カ国と非OPECの米国、ブラジル2カ国は2000年以降2014年までいずれも埋蔵量が増加している。しかし両グループの性格は全く異なることを理解しなければならない。ベネズエラなどOPEC3カ国の埋蔵量は国威発揚と言う動機が働いて水増しされているものと推測されるが、政府が石油産業を独占しており水増しの有無を検証することは不可能である。
これに対して石油産業が完全に民間にゆだねられている米国、或いは国際石油企業との共同開発が一般的なブラジルのような国では埋蔵量を水増しすることはタブーである。何故ならもし水増しの事実が露見すれば当該石油企業は株主訴訟の危険に晒されるからである。かつてシェルが埋蔵量を大幅に下方修正して大問題となったが、私企業としては決算時に公表する埋蔵量は細心の注意を払った数値でなければならないのである。したがって米国やブラジルは経済性の原則に従い油価が高い状況下では探鉱が活発化し埋蔵量が増えるのに対して、油価の低い時期は探鉱投資が低迷し埋蔵量が停滞または減少すると言えよう。
またサウジアラビアは2017年に埋蔵量を上方修正しているが、国営石油サウジアラムコの株式上場(IPO)と関連付けた場合、微妙な問題を含んでいるとも言えよう。埋蔵量を多くすることは企業の資産価値を高めることになり、IPOにプラスとなるが、上場後は資産(埋蔵量)をその時々の市場価格で再評価する必要があり、企業価値が大きく上下する原因にもなりかねない。
一般論としては埋蔵量に常にあいまいさがつきまとうのは避けられない。本レポートで取り上げたBPの他にも米国エネルギー省(DOE)やOPECも各国別の埋蔵量を公表している。しかしいずれも少しずつ数値が異なる。埋蔵量そのものを科学的に検証することが困難であると同時にそれぞれの査定に(たとえ米国の政府機関と言えども)政治的判断が加わる。結局「埋蔵量」とは掴みどころの無いものとしか言いようがないのである。
(石油篇埋蔵量完)
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