goo blog サービス終了のお知らせ 

石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

地に堕ちたサウジ外交Part3:取り残されたサウジアラビア(1)  

2021-02-15 | その他

 これまでサウジアラビアはイスラムの盟主と讃えられイスラエル・パレスチナの中東和平問題で一貫してイスラエルと対決することでイスラム諸国の支持を得てきた。その一方、世界最大の産油国として世界のエネルギー供給の安定に寄与し、さらに豊富なオイルマネーで米国のウォール街及び軍需産業の繁栄を支えてきた。さらに経済力を背景にアラブ唯一のG20加盟国として国際的な地位と発言力を獲得した。そして中東最大の親米国として米国のイラン制裁の一翼を担い、アラビア半島の要として地域ににらみを利かせてきた訳である。

 

 しかしイスラエルとUAEが和平協定を締結、バハレーン、スーダン、モロッコがそれに続いたことで、サウジアラビアはアラブ諸国の政治的リーダーとしての自負を傷つけられた。石油についても米国がシェールオイル・ガス開発でエネルギーの自給体制を確立し、サウジアラビアの重要性が薄れている。かつてのOPEC石油カルテルの威光の再現を目指したOPEC+(プラス)体制でもロシアに引っ掻き回されるばかりである。そしてアラビア半島南端のイエメン内戦では政権内部の内紛に力をそがれ、自国領土が反政府フーシ派のドローン攻撃に晒される始末である。

 

1.イスラエル和平でUAEに出し抜かれ、バハレーンにもコケにされる。

 イスラエルとの和平は、(中東・パレスチナ紛争の敗者として1979年及び1994年に和平に応じたエジプトとヨルダンの二カ国を除き)アラブ諸国にとってタブーであった。しかし実際問題としてアラブが束になってもイスラエルに適わないことは明らかである。そのことを最もよく理解しているのが湾岸GCC諸国の第二あるいは第三世代の王子たちであり、その代表格がサウジアラビアとアブダビの両ムハンマド皇太子である。

 

 特に1985年生まれのサウジアラビアのムハンマド皇太子(通称MbS)は、中東戦争を知らずパレスチナ問題に対しても関心が薄い。彼はむしろ米国との関係強化に熱心である。米国トランプ政権は在イスラエル大使館のエルサレムへの移転、ゴラン高原の併合容認など極端なイスラエル寄りの政策を実施する一方、イラン核合意から離脱し経済封鎖を強化してイラン敵視政策を打ち出した。このトランプ政権の方針がアラブ圏における外交の主導権を握ろうとするMbSの野心に火をつけた。

 

トランプ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相及びMbSの間を取り持ったのがトランプの娘婿でユダヤ教徒のクシュナーである。トランプとクシュナーは政権のレガシー(神話)を高めるためイスラエルとアラブとの和平実現を目指した。MbSは自国こそがその最短距離にいると考えたのである。しかし保守的な父サルマン国王は、アブダッラー前国王時代のイスラエル・パレスチナ二国併存の和平提案に固執、イスラエルとの単独和平には応じない。国王はほとんどの政策を皇太子の自由にさせているもののイスラエル・パレスチナ問題だけは頑固に譲らないのである。国王・皇太子の親子間には大きな意見の相違がある。

 

大統領再選を目指していたトランプは国内ではコロナ対策で後れを取ったため、失地回復を外交に求めイスラエルとアラブ諸国の和平実現を目指した。イスラエルを熱烈に擁護するキリスト教福音派の支持を確かなものにすることが目的である。しかしサウジアラビアは国王と皇太子の意見が分かれ、目前に迫った大統領選挙には間に合わない。そこで米国はUAEに誘いをかけた。UAEが欲しがっているF-35ステルス戦闘機を餌にイスラエルとの和平を持ち掛けたのである。

 

バハレーンはと言えば、イラン系のシーア派住民が多数を占め、少数派でスンニ派のハリーファ王家が支配しており体制が不安定である。そのバハレーンには米国第五艦隊の基地があり1万人近い米兵が駐留している。これまでハリーファ王家はサウジアラビアに対して忠犬のごとく従順であったが、王家安泰の後見人に米国を選んだ。バハレーンは政治的・経済的なパトロンであったサウジアラビアをコケにしたのである。

 

MbSは自らを中東のフィクサーと過信し、トランプ米国大統領(当時)及びプーチン・ロシア大統領とのホットラインをセールスポイントにして強引な政治・エネルギー外交を展開しようとした。しかし、彼は今や自らが裸の王様であることを思い知らされたのである。

 

(続く)

 

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

石油と中東のニュース(2月15日)

2021-02-15 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・原油価格上昇。Brent $62、バックワーデーションで先物より3ドル高

・LNGアジアスポット市場、暖冬で$6.90mmBtuに下落

(中東関連ニュース)

・カタール、NATO本部に代表事務所開設

・エジプトで世界最古5千年前のビール醸造所発掘

・UAE火星探査衛星からの画像届く

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする