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http://mylibrary.maeda1.jp/0527SaudiDiplomacy3Salman.pdf
2.名ばかりのイエメン有志連合:支えるのはサウジのみ
元来部族社会の色合いが濃いイエメンは、サーレハ大統領が2011年の「アラブの春」で失脚した後、内戦状態に陥った。首都サナアを含む北部一帯はフーシ族の居住地域であるが、イスラム教シーア派のフーシは同じシーア派のイランの支援を受けており、国境を接するスンニ派のサウジアラビアにとっては厄介な存在である。
サウジアラビアはサーレハの後継者でスンニ派のハディ政権を支援したが、政権基盤の弱いハディ勢力はサナアを追われ、首都を南部のアデンに移した。ハディ政権はアデンで南部武装勢力と連合してフーシ派に対抗しようとしたが、南部地域は元々独立志向が強く連合勢力内部では両者の対立が絶えなかった。加えてフーシ派の攻勢にさらされアデンの防衛すらままならない有様であった。
見かねたサウジアラビアは2015年にUAE、スーダンなど中東北アフリカ諸国を巻き込んだ有志連合を結成、地上戦では勝ち目がないため、米国のバックアップのもとで空爆を敢行した。ハディ大統領以下イエメン政府閣僚はサウジアラビアの首都リヤドで政務を執ると言う亡命政権の様相を呈している[1]。地上の戦闘と空からの爆撃でイエメン全土は荒廃、大勢の避難民が発生し、イエメンは世界で最も貧しく危険な破綻国家となった。サウジアラビアはハディ政権が国際的に認知された正統政権であり、対するフーシ派はテロ国家イランに支援されたテロ組織であると国連で非難演説を繰り返した。
内戦はサウジアラビアとイランによる代理戦争の様相を呈しており両者とも非難されるべきは同じである。しかしイエメン一般市民から見れば、外国のサウジ空軍戦闘機の爆撃の方が、同じイエメン人のフーシ派反政府軍より反感を買っていることは間違いないであろう。戦闘機ではるか上空から空爆するサウジのパイロットたちには身の危険もなく、テレビゲーム感覚で手当たり次第に爆撃しているとも言えよう。
近代装備の差は歴然だった。それでもハディ政権軍と有志連合はフーシ派に押されっぱなしである。南部武装勢力は有力な地元部族でありそれなりの戦闘能力を有している。結局イエメンは今も部族が幅を利かす国であり、有力部族の後ろ盾が無くサウジ有志連合軍に頼るハディ政権はフーシ派はおろか南部勢力にも対抗できないのである。それでもサウジアラビアは有志連合の旗を押し立ててハディ政権を支え続けている。シーア派のフーシ勢力がイエメンの支配権を握ればサウジアラビアのサウド家そのものが危うくなることは間違いないからである。
もたつきにしびれを切らしてUAEが戦線を離脱した。UAEは有力な南部武装勢力を支えていたが、ハディ勢力と南部勢力の内部争いが表面化したことが大きな要因である。エジプトなどUAE以外の有志連合国は元々イエメン介入に消極的である。この結果イエメン内戦を外部から支えるのはサウジアラビアだけとなった。まともな地上戦闘兵力を持たないサウジアラビアはスーダンから前線兵士を調達し、また米国から金にあかせてミサイルや、ドローン、砲弾を調達しているのが現在の姿である。貧乏なスーダンは傭兵の派遣で潤い、米国は高みの見物をしながら兵器輸出で潤うと言うわけである。サウジアラビアは財布の底が抜け、財政がどんどん悪化する。
サウジ一国が支えるイエメン有志連合はいつまでも続かない。それどころかサウジはイエメン領内からのイラン製ドローン攻撃を受けている。パトリオットミサイルで必死に迎撃しているが、ごく最近では首都リヤドで撃墜されたドローンの残骸が民家に落下するという事件も発生し[2]、サウジ自身の安全が脅かされる事態になっている。国防大臣でもある皇太子MbSに安眠できない日々が続く。
(続く)
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荒葉一也
[1] New Yemeni power-sharing govt sworn-in in Saudi Arabia
2020/12/27 Khaleej Times
https://www.khaleejtimes.com/region/mena/new-yemeni-power-sharing-govt-sworn-in-in-saudi-arabia
[2] World leaders condemn Houthi attack on Riyadh
https://www.arabnews.com/node/1817346/saudi-arabia
2021/2/28 Arab News