石油と中東

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2021-03-12 | データベース追加・更新

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・サウジアラビアの外貨準備高(with Brent原油価格)

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地に堕ちたサウジ外交Part3:取り残されたサウジアラビア(3)  

2021-03-12 | 今日のニュース

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0527SaudiDiplomacy3Salman.pdf

 

3.米国にすがりつくサルマン国王父子

 現在のサウジアラビアは、サウド家なかでもサルマン国王とムハンマド皇太子(略称MbS)及びアブドルアジズ王子の親子3人が牛耳っている。国王が首相、皇太子が国防相、そしてアブドルアジズ王子が石油相であり、同国の政治・経済・外交・国防問題はサルマン国王父子が独占し異論を許さない独裁体制である。

 サウジアラビアはイランに対抗するイスラム教スンニ派の盟主、あるいは世界のエネルギー供給を左右するOPECの盟主であり中東アラブの大国であるとの評価が定着している。しかし一歩踏み込むとサウジアラビアはその国名が示す通りあくまでも従来から「サウド家のアラビア」であった。即ちサウド家が石油の富を一般国民に分配すること(いわゆるレンティア国家政策)で正統な支配者であることを内外に認めさせてきたのである。最近ではそれが「サルマン国王一族のサウジアラビア」に変質しつつある。国王は一族の生き残りのために国際社会に「サウジアラビア」と言う国家を認知させることに必死なのである。

 

 しかしサウジアラビアそのものは国家として極めて脆弱である。サウジアラビアは中東諸国の中で経済力こそ抜きんでているが、その他の面ではイランはもとより、トルコ、エジプトに到底かなわない。人口がサウジよりはるかに少ないイスラエルにすら太刀打ちできず、最近ではイエメンにもてこずっている。それらの弱点をカバーしてきたのが米国との緊密な関係であった。

 

 大統領就任後最初の外国訪問先にサウジアラビアを選んだことに始まり、トランプ政権時代の米国・サウジ関係は極めて良好であった。その後も大統領がイランとの核合意を破棄、サウジを中核とするイエメン有志連合結成を後押しし、イエメン・フーシ派をテロ組織に認定してサウジアラビアを喜ばせた。

 

 サウジアラビアは感謝の証しとしてトランプ大統領の来訪時に数千億ドルの武器を買付け、皇太子MbSは大統領娘婿クシュナーの中東和平工作を積極的に応援した。この頃が皇太子の絶頂期であった。しかし慢心したMbSは取り返しのつかない過ちを犯した。イスタンブールのサウジ領事館におけるカショギ記者殺害事件である[1]。MbSがカショギ氏殺害を指示または了解したことは誰の目にも明らかであり、米国のCIAの報告書ですらその事実を示している。だがトランプ大統領は事実を認めずCIAの報告書も在任中は公表しなかった。

 

 MbSは息を吹き返すかに見えたがヨーロッパ各国はじめ米国以外はMbSに対する疑惑を強めた。国営石油会社サウジアラムコのニューヨークあるいはロンドン上場は無期限延期となった。国際的なステータスの回復を求めたMbSの思惑はことごとくはずれている。

 

 トランプ政権のレガシー(神話)作りの本命であったイスラエルとアラブとの和平問題で、MbSはクシュナーとの親密な関係をてこに和平の先駆けを狙ったが、慎重論の父サルマン国王との間で確執が生まれUAEに先を越された[2]

 

 米国バイデン政権の誕生により事態は一層不利になっている。バイデンが副大統領であったオバマ政権時代に米国・サウジ関係は最悪だったが人権と女性尊重を重視するバイデン政権はサウジアラビア、特にMbSに容赦がない。

 

 米国政府はCIAのカショギ事件報告書を公表し、MbSの腹心の部下に経済制裁を課した。大統領がサルマン国王に電話したのは就任1カ月後で、しかもMbSは国務長官に相手をさせた。これは外交交渉のカウンターパートとして当然のことであるが、トランプ前大統領時代の厚遇に慣れたMbSにすれば不満だったに違いない。

 

 エネルギー問題では米国自身が石油の100%自給体制を確立した。環境問題を見据えれば石油から再生エネルギーへの転換が求められており、石油王国サウジアラビアは米国の視野から消えつつある。イスラエルとアラブ諸国との和平はUAEに続きバハレーン、スーダン、モロッコと広がり、当面サウジアラビアを抱き込む必要はない。さらに米国はイエメン・フーシ派をテロ組織のリストから削除し、サウジアラビアに和平を促している。米国の外交政策の最大の関心事は中国封じ込めであり、中東からは手を引く意向である。

 

 今やサウジアラビアは国際舞台で取り残されつつある。しかし同国にとって頼れる相手は米国しかない。サルマン国王父子はバイデン政権の歓心を買うために必死である。OPECでロシアはじめ他国が協調減産を緩和しようとする中で、サウジ一国だけが百万B/Dの自主減産を続けていることも考えようによっては米国向けのアピールと言えなくもない。何故なら減産したサウジにとっては値上がりの恩恵は帳消しであるが、米国の石油産業にとっては「漁夫の利」になるからである。サウジアラビアの自主減産は米国に対する自己犠牲的忠誠心を示していると言えよう。

 

 失地回復のためなりふり構わず米国に秋波を送っているのが最近のサウジアラビアの姿である。

 

以上

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

 

[1] レポート「どうなる?カショギ記者殺害事件の幕引き」(2019年4月)参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0464KhashoggiCase.pdf 

[2] レポート「和平合意で急速に深まるイスラエルと UAE の関係」(2020年11月)参照

http://mylibrary.maeda1.jp/0517UaeIsraelPeaceAccord.pdf 

 

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