(英語版)
(アラビア語版)
2022年6月
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」
22. さまよう3羽の小鳥(下)
「アブダラー」はヘルメットを脱ぐと首にぶら下げたロケットを戦闘服の襟もとから取り出し蓋を開けた。そこには彼の唯一の肉親である姉と姪の写真が入っている。<週末にはまた姪に会いに行こう> 心の中で呟くと彼はいとおしむように写真を眺めた。
その時、喉の奥につかえを覚えた。<風邪は治ったはずなのに-------> 彼は数度咳き込んだ。それはまるで彼の意思とは無関係に何者かが体外に飛び出そうとするかのようであった。咳とともに喉の奥の飛沫が姉と姪の写真の上に飛び散った。「アブダラー」はそのままロケットの蓋を閉じ胸にしまい込むと、ヘルメットを装着し直した。
「どうしたんだ?」。
「エリート」の心配そうな問いかけが入った。膝に置いたヘルメットのマイクロフォンが咳き込む音を拾ったらしい。
「何でもありません。任務が終わって緊張が解けたためと思われます。」
実のところ「アブダラー」は緊張が解けた訳ではなかった。彼には気がかりなことが一つ残っていた。操縦する戦闘機の胴体に抱えている小型核ミサイル---------。
<これだけは無事に基地に持ち帰らなければ> 彼は心の中でそうつぶやいた。
ペルシャ湾上空をホルムズ海峡へと向かう戦闘機は母国からますます遠ざかるばかりである。彼は前方に拡がるペルシャ湾の紺碧の海と真青な空をただじっと凝視した。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html