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(目次)
第4章:中東の戦争と平和(17)
103 アフガン戦争勃発:呉越同舟の米国とアラブ(3/5)
しかしムスリムたちにとって共産主義の無神論は理解に苦しむどころか悪魔の思想である。唯一神アッラーのためにアフガニスタンのムジャヒディン(ジハード戦士)は共産主義政府に立ち向かった。その闘争に共鳴したのがアラブ諸国のムスリムたちであった。豊かな湾岸産油国のムスリムたちはモスクで礼拝を済ませた後、遠いアフガニスタンのジハード戦士たちのために出口に置かれた義援箱にお金を入れた。ザカート(喜捨)はムスリムの宗教的義務であり、彼らは喜んで寄付したのであった。その性格上戦争を支援するための寄付金は公にすることができず、いくつかの銀行を経てマネーロンダリング(資金洗浄)された。モスクを通じた戦費の調達とその送金方法は後々イスラーム過激派に対する資金ルートに変貌して中東各国政府や欧米諸国を悩ませるのであるが、この当時はむしろ黙認或いは奨励されていた。
さらに米国がこの戦争で反政府ゲリラを支えた。米国は彼らにミサイルなどの武器弾薬或いは軍事衛星で得られたソ連駐留軍の動きなどの機密情報をパキスタンを通じて反政府側に与えたのである。このようにアフガニスタン戦争ではアラブ諸国がヒト(義勇兵)とカネ(戦費)を与え、米国がモノ(近代兵器)とインテリジェンス(情報)を与え、共同してソビエト社会主義政権に対抗したのである。イスラームとキリスト教という真っ向から対立する陣営の共闘体制はまさに「呉越同舟」であった。
両陣営がソビエト社会主義打倒を目指した思想の背景は全く異なる。アラブ陣営には共産主義の無神論に対する強烈なアレルギーがあった。彼らはソ連が「悪魔」の国でありこれを打倒することはジハード(聖戦)であった。そもそもアラブ民族の「血」とイスラームの「信仰」が体にしみこんでいる彼らにはイデオロギーという「智」が入り込む余地はないのである。これに対して米国は自由主義対社会主義、資本主義対共産主義という明確なイデオロギー思考に立ってソ連を打倒し世界の覇権を握ることが目的であった。1975年に泥沼のベトナム戦争を終結し、同じ年に先進国サミット(G7)で世界経済の覇権を確かなものにした米国にとってソ連は最後の敵であり、アフガニスタン戦争はその最前線というわけである。
(続く)
荒葉 一也
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