石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(15)

2010-09-19 | 中東諸国の動向

「国境の南」作戦(3)

 「最初に我々が見逃した3機はどうなるのでしょう。」
 誰しも薄々わかっているはずのドラマの結末を聞きたがった。
 「イスラエル空軍はイラン空軍より格段に優れている。戦闘機もパイロットもだ。だから彼らは目標を爆撃しイランの領空を無事脱出するだろう。」
 「しかしその時彼らは親鳥が迎えに来られないことを知る。彼らには帰投するだけの燃料は無い。燃料が底をつき次第に弱る仔鳥たちの運命がどうなるのか。それはアラーのみがご存じであろう。インシャッラー。」

 司令官の言葉に笑う者は誰もいなかった。イスラエルが自分たちの作戦の罠にはまったことに快哉を叫びたい気持だった。しかしその一方で敵とは言え彼らも自分たちと同じパイロットである。任務を遂行したにもかかわらず燃料切れで帰投できず、アラビア上空をさまよった挙句、砂漠か海に不時着することは間違いない。それを想像すると笑ってすますことなどできなかった。パイロットとしての奇妙な仲間意識とでも言うのであろう。

 トルキ王子は椅子に座ったまま腕を組んで目を閉じた。突然目の前の電話の呼び出し音が室内に響きわたり全員に緊張感が走る。王子が受話器を取り上げると、タブーク空軍基地司令官の声が飛び込んできた。サウジアラビアの北西にあるタブーク基地はイスラエルを監視する要衝の地にあり、最新鋭のレーダーとコンピューターを積み込んだ早期警戒機AWACSが配備されている。タブーク基地司令官が早口気味に状況を伝えてきた。

 「午前7時○○分、イスラエル空軍給油機1機と護衛の2機がヨルダン領空を通過中。○○分後にわが国とイラクの国境上空に達する見込み。3機の高度○○フィート、速度○○kmh。以上。」
 「了解」
 「作戦の成功を祈る。」
 二人の司令官の間で短いやりとりが交わされた。

 受話器を握りしめながらトルキ王子は目の前の副司令官に目配せした。それに応えて副司令官が軽くうなずく。王子は受話器を置くと立ちあがって言った。
 「直ちに作戦行動に移れ。」
 飛行服に身を固めた攻撃隊長以下9名のパイロットが椅子から反射的に身を起こすと王子に最敬礼し、ドアに向かって走った。彼らの背中に力強い王子の声がとぶ。
 「任せたぞ!」
 パイロット達は後ろ向きのまま右手を上げて部屋から駆けだして行った。

(続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

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今週の各社プレスリリースから(9/12-9/18)

2010-09-18 | 今週のエネルギー関連新聞発表

9/16 石油連盟   天坊 石油連盟会長定例記者会見配布資料 http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/2010/index.html#id443
9/16 OPEC   OPEC gears up for 50th Anniversary Exhibition at Vienna’s historic Kursalon http://www.opec.org/opec_web/en/1891.htm    *
9/17 BP   Update on Gulf of Mexico MC252 Operations http://www.bp.com/genericarticle.do?categoryId=2012968&contentId=7065070

*ブログ「OPEC50年の歴史をふりかえる」参照


 

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荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(14)

2010-09-16 | 中東諸国の動向

「国境の南」作戦(2)

彼らがこの3日間かけてたてた「国境の南作戦」。それはイスラエル戦闘機3機の発進後少しおいて同じ空軍基地から離陸する後続の3機に対処する作戦である。後続機とは大型空中給油機とそれを護衛する戦闘機2機の合計3機の編隊。9機のサウジアラビア戦闘機がヨルダン国境とハファル・アル・バテンのほぼ中間地点でイスラエルの3機を待ち伏せ、敵機の後方に回り込む。そして給油機と護衛機の間に割り込み3機を分断、味方の戦闘機がそれぞれ3機ずつで取り囲むという戦法である。

「彼らは離陸した後、先に発進してイランに向かった3機と同じ飛行ルートをたどる。最初の3機がイランのどこに向かい何をするかは先程話した通りだが、この3機は手出し無用だ。」

イスラエル戦闘機のミッションについてトルキ司令官は父親の国防相から聞いた内容を部下達に伝えた。

「後から飛んで来る3機のうち給油機だけサウジアラビア領空に誘導しそのままここに連れてこい。国境の南はサウド家の領地だ。領地に来た客人は丁重にテントにお迎えする。それがベドウィン流のもてなしと言うものだ。」
「敵の給油機がすんなりと誘導に従わない場合はどうしますか?」
「その時は貴様らは鷹になれ。我が領空であることを確認した上で給油機を撃墜するのだ。領空を侵犯した軍用機の撃墜は自衛権の行使として国際法上認められている。」
部下の質問に対しトルキはそう答えた。

「護衛の2機はどうしますか?」攻撃隊長の中佐が尋ねた。
「二人の従者は国にお帰りいただくのだ。2機とも給油機からできるだけ遠く引き離せ。但し撃墜する必要はない。彼らは何とかこちらを引き離し給油機の傍に戻ろうとするだろうが、しっかり取り囲んで飛び続けさせろ。」
「彼らはいずれ燃料が底をつく。そこはイラクか、さもなくばわが王国の領空だから砂漠に不時着する訳にもいくまい。結局Uターンして自国に戻るほかないはずだ。」

 (続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(9月15日)

2010-09-15 | 今日のニュース

・OPEC事務局長が創設50周年の記者会見:現在の価格水準に満足  *

 

*拙稿「OPEC50年の歴史をふりかえる」参照

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荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(13)

2010-09-13 | 中東諸国の動向

「国境の南」作戦(1)

月曜日の早暁。ハファル・アル・バテン基地の誘導灯は終夜煌々と滑走路を照らし、格納庫もオフィスも兵士が慌ただしく動き回っている。司令官のトルキ王子はまんじりともしない一夜を過ごしたが、高ぶった気持ちに頭は冴えわたっていた。基地のモスクのミナレット(尖塔)から夜明けの祈りを促すアザーンの声が流れる。いつもはモスクの中で礼拝するのだが、今日は兵舎の外の砂漠に体一つ分の絨毯を敷き南のメッカの方向に向かって祈りを捧げた。清冽な空気が辺りを支配し、東の空が白み地平線に太陽が顔をのぞかせた。何百年も前から砂漠の民ベドウィンが目にしてきた神々しい風景だ。コーランの一節を唱え、何度か膝を屈して地上にひれ伏した。アラーへの感謝の気持ちが体中にみなぎる。

祈りを終えると王子は軍服についた砂を払い落し、メッカとは反対の北の空を仰いだ。そろそろイスラエルの戦闘機が通過する時刻だ。彼らがこの辺りを通過するときはこの基地を避けてイラク深くを飛行すると聞かされていた。だから機影を見ることは無理かもしれない。しかしジェット音は見逃さない。過酷な砂漠に生きるベドウィンは遥か遠く砂丘の稜線に動く人影、或いは遥か遠くで砂丘を踏みしめるラクダの足音を感知する目と耳を持っている。

今や王族の大半は都会暮らしであるが、それでも砂漠に戻ればベドウィンの視力と聴力は他の追随を許さない。それは王子が飼っている鷹と同じ程の能力なのである。と言うよりベドウィンを「砂漠の鷹」と呼んだ方が相応しいのかもしれない。

王子の耳に遠くで唸るような音が聞こえた。普通の人間なら幻聴と片付けるほどのかすかな爆音であるが、彼はジェット戦闘機の音だと確信した。傍にいる部下たちも聞き逃さなかった。その時間帯はベイルートからドバイに向かう定期便が上空を通過する時間であったが、王子と彼の部下は戦闘機と民間ジェット機の音の違いを聞きわけることができる。

王子は腕時計で時間を確かめた。いよいよ「国境の南」作戦に入る時が来たようだ。王子と部下の上官たちは足早に司令官室に向かった。

(続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(9月11日)

2010-09-11 | 今日のニュース

・NY原油価格上昇、76.56ドルに。英Brentは79.96ドル。

・8月のOPEC減産遵守率は53%。

・超人的なサウジアラビアのナイミ石油相。引退は当分先? *

 

*2007.4.13付けブログ「辞めさせてもらえないナイミ石油相」参照。

 

 

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今週の各社プレスリリースから(9/5-9/11)

2010-09-11 | 今週のエネルギー関連新聞発表
9/7 Chevron   Chevron Acquires Interest in Three Deepwater Exploration Blocks in China http://www.chevron.com/chevron/pressreleases/article/09072010_chevronacquiresthreedeepwaterexplorationblocksinchina.news
9/8 経済産業省   クウェートとの原子力協力文書への署名について~経済産業省はクウェートにおける原子力発電導入の基盤整備に協力します ~ http://www.meti.go.jp/press/20100908002/20100908002.html
9/8 BP   BP Releases Report on Causes of Gulf of Mexico Tragedy http://www.bp.com/genericarticle.do?categoryId=2012968&contentId=7064893
9/9 Total   Australia: Total Acquires a 20% Interest in GLNG Project http://www.total.com/en/press/press-releases/consultation-200524.html&idActu=2439
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ニュースピックアップ:世界のメディアから(9月9日)

2010-09-09 | 今日のニュース

・BP、メキシコ湾原油流出事故で報告書公表:掘削・セメント下請業者にも事故原因。

・ニューヨーク原油、74.67ドルに。

・クウェイトとSinopecの合弁製油所事業、当局の環境審査をクリア

・ドバイ、年末にカタールからLNG輸入開始

 

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荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(12)

2010-09-08 | 中東諸国の動向

サウジアラビアの秘かな動き(3)

「息子よ。よく考えてみろ。イランの核兵器開発は我々にとっても重大な脅威である。何よりもペルシャ人でシーア派の坊主共は米国やヨーロッパ諸国或いはイスラエルよりも我々にとってもっと身近な敵なのだ。」
「その敵をイスラエルがやっつけると言うのだ。イスラエルのやりたいようにやらせておけ。それで我々の頭痛の種が一つ減る訳だ。ユダヤ人とペルシャ人のいがみ合いで、我々アラブ人が労せずして漁夫の利を得られるという寸法だ。」

受話器から国防相の薄ら笑いが漏れてきた。小さい頃から聞き慣れたその薄ら笑いをトルキ王子は今でも好きになれない。父親は自分の今の年ごろには既に国防相になっていた。そして彼は権謀術策の限りを尽くして今日までその地位を守ってきた。そして彼は権力の階段を一段昇る毎に今日のような薄ら笑いを見せたのである。

対照的に息子のトルキは『銀のスプーンを口にくわえて』生まれ、快活で裏表のない性格に育った。彼の周りには常に友人達と笑い声が絶えなかった。彼が軍のエリートコースであるジェットパイロットの訓練生として米国に留学した時も、彼の竹を割ったような性格は米国人の上官や同僚達に好かれた。米国の軍人は陽気で快活で裏表のない人間が大好きなのである。

しかも彼らはエスタブリッシュメントと呼ばれる人物に秘かな憧れを持っており、「王子」などと言う米国には逆立ちしても探せないハイソサエティと仲間になれることがうれしいのである。王子は「同じ釜の飯を食った仲間」に加えられ、彼らとの付き合いは今も続いている。

 父親に息子の気持など解かるはずもなく、国防相は話を続けた。
 「ワシントンはイスラエルのもう一つの要請を伝えてきた。これから後はお前と部下達の仕事だ。」そう言って国防相は息子のトルキに何事かを指示した。司令官の顔がたちまち紅潮した。
 
「了解。父上。」
彼はそう言って携帯電話を切ると周囲に集まった部下達に命令した。
「鷹狩りは中止だ。直ちに基地に帰る。主だったものを私の部屋に集めろ。今から30分後に重要会議を開く。」

(続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

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荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(11)

2010-09-06 | 中東諸国の動向

サウジアラビアの秘かな動き(2)

 「前置き抜きで用件だけ手短に話す。」父親の声がいつもより重々しい。
 「先日ワシントンから申し入れがあった。今日から3日後の月曜日早朝、イスラエル戦闘機3機がイランに向かって我が王国とイラクの国境線上空を飛行するそうだ。」

 イスラエルがイランの核施設を攻撃すると言う噂が世界中のマスコミをにぎわせており、トルキ王子はこれまで半信半疑であった。それがついに現実のものとして彼の前に突きつけられ、彼は緊張した。

 「彼らはナタンズを狙っている。米国政府はイスラエルの攻撃を認め、我が国に対して3機の飛行を黙認しろ、と言ってきた。」
国防相は息子の動揺を無視するかのように電話の向こうで淡々と話し続けた。
「それで我々にどうしろと言うのですか?」

「国王、内相と外務大臣と俺の4人で話し合った。」
国王は国防相と二つ違いの異母兄であり、内相は国防相の実の弟である。そして外務大臣はこれも異母兄である故第三代国王の遺児、つまり甥ということになる。国防相、内相、外相はいずれも30年以上も同じポストにおり、サウジアラビアの防衛と治安と外交を握っている。それはとりもなおさずサウド王家一族の体制を守ることでもあった。

「我々は米国の要請を受け入れることにした。3機は夜明けごろお前の基地の北方を通過するはずだ。そいつらは黙って見過ごせ。」
「イスラエル機が我が領空を侵犯するかもしれないと言うのにそれを見過ごせと言うのですか? どうして撃墜しないのですか?」トルキ王子は高ぶる気持ちを抑えきれずに父親に問い返した。

彼の肩に止まっていた愛鷹「スルタン号」が思いがけない主人の大声に驚いて羽をばたつかせた。王子は自分の鷹に父親の名前をつけていた。これは敬意の意味合いと同時に、日頃頭の上がらない父親に対する彼一流の茶目っ気の意味もあった。「スルタン号」が獲物を取り逃がした時など「スルタンの役立たずめ!」とか「このろくでなし!」などと罵詈雑言を浴びせては溜飲を下げるのであった。

(続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

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