石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(16)

2017-07-23 | BP統計

 

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

2017.7.23

前田 高行

 

5.世界の石油精製能力(続き)

(半世紀で9倍に増えたアジア・大洋州の精製能力!)

(3)1965年~2016年の地域別石油精製能力の推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-5-G02.pdf 参照)

 1965年の全世界の石油精製能力は3,478万B/Dであったが、5年後の1970年には1.5倍の5,166万B/Dに増え、さらに1980年には2.3倍の7,896万B/D強になった。その後1980年代は横ばいであったが、2000年には1980年を超える8,200万B/Dとなり、さらに2009年には9千万B/Dを突破し2016年の世界の石油精製能力は9,743万B/Dに達している。過去半世紀の間に全世界の精製能力は3倍近くに増えているのである。

 

 これを地域別にみると、1965年には北米及び欧州・ユーラシア地域の精製能力はそれぞれ1,190万B/D、1,319万B/Dとこの2つの地域だけで世界の72%を占めていた。その他の地域はアジア・大洋州及び中南米がそれぞれ10%、中東は5%で、アフリカはわずか2%に過ぎなかった。しかしその後、アジア・大洋州の伸びが著しく、1975年には1千万B/Dを突破、さらに1990年代後半に2千万B/D、また2012年には3千万B/Dを超え、2016年末の精製能力は3,282B/Dに達している。1965年に比べ精製能力は9倍に拡大しており、この間に北米、欧州・ユーラシアを追い抜き世界最大の石油精製地域となっている。

 

 欧州・ユーラシア地域は1965年に1,319万B/Dであった精製能力が1975年には3千万B/Dを超え第二次オイルショック時の1980年には3,200万B/Dに達した。しかしこれをピークにその後は減少の一途をたどり2016年には2,330万B/Dまで落ち込んでいる。その結果世界全体に占める割合も1975年の43%から2016年には24%まで低下している。

 

 北米地域については1965年の1,190万B/Dから1980年には2,200万B/Dまで伸びたが、その後需要の停滞とともに精製能力は削減され2000年までのほぼ20年間は1,900万B/D前後にとどまっていた。2000年代に入り再び2千万B/Dを突破し、2016年の精製能力は2,211万B/Dである。

 

 中東、アフリカ地域は世界に占める割合は小さいものの、精製能力拡大のペースはアジア地域に決して引けを取らない。中東地域の場合1965年の170万B/Dが2016年には948万B/Dと半世紀で5.6倍に膨張している。またアフリカ地域は1965年にわずか82万B/Dにすぎなかった精製能力が2016年には4.2倍の346万B/Dに増加している。2010年から2016年の過去6年間だけで比較すると北米、中東、アフリカ及びアジア・大洋州地域は増加しているが、欧州ユーラシアは0.97倍と設備能力が減少している。

 

 アジア、中東、アフリカの新興地域ほどではないにしろ、北米も過去5年間でわずかながら増加しているのは注目に値する。シェールオイルの開発などにより石油の上流部門が過当競争に陥り利益が出ない体質になったのに対して、逆に原油価格が下がったことにより下流部門の石油精製が利益の稼ぎ頭となったことが、北米の精製能力拡大に結び付いているようである。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

 

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カタールGCC離脱(Qatarexit)の可能性も:カタールとサウジ国交断絶(3)

2017-07-23 | 中東諸国の動向

2017.7.23

荒葉一也

 

3.ジレンマの米国:武器は売りたし、基地は借り続けたし

 カタールに断交を突きつけたサウジアラビア、UAE、エジプト及びバハレーン4か国、いわゆる「対テロ4か国同盟」(Anti-Terror Quartet、略称ATQ)は、6月22日、カタールに13か条の要求を突きつけ、その回答期限を10日間とした。アルジャジーラ放送局の閉鎖、トルコ駐留軍の撤退などを求めた強硬な要求に対してカタール側は「拒否する以外に選択肢のない要求である」と強く反発した。

 

 同じGCCの一員であるクウェイトが仲介役として乗り出しサバーハ首長はリヤドとドーハの間でシャトル外交を繰り返している。しかし諸外国にとっては所詮GCC君主制国家の内輪喧嘩であり、当事者同士で話し合い解決するのがベストと見ている。先進国の中では最も利害関係が深い米国のホワイトハウスも当初は「Family issue (家庭の問題)」と突き放した姿勢であった[1]

 

 しかし問題解決の糸口を見い出せないままATQ4か国とカタールは互いを非難し、自らの正当性を主張するPR合戦の様相を呈している。これ以上事態がエスカレートし、万一ペルシャ(アラビア)湾からの石油或いは天然ガスの供給に問題が生じれば日本、中国、インドを含むアジア各国は大きな影響を受けることは間違いない。日本の場合、サウジアラビア、UAEに石油を、またカタールに天然ガスを頼っているため、どちらか一方の肩を持つ訳にはいかない。日本自身が調停に乗り出す可能性もないではないが、世界的に石油・天然ガスは余っており中東以外からも買い付けやすい状況を考えれば、ここは下手に調停役を買って出た挙句どちらか一方から恨みを買うという最悪のリスクを考えれば静観するのが得策であろう。

 

 ところが米国のトランプ政権はこのまま「Family issue(家庭の問題)」として静観ばかりしていられないようである。エネルギー需給の面だけで見ればシェール・オイル及びシェールガスの増産により米国はエネルギーの自給率を高めており、サウジアラビア・UAEの石油或いはカタールの天然ガスは米国にとって大きな問題ではない。

 

 それでは米国にとってこれら湾岸の国々に対する死活的利益が何かと言えばそれは「軍事的利益」なのである。わかりやすく言えばそれはサウジアラビア(及びUAE)にもっと多くの武器を売りつけることであり、一方カタールに対してはウデイド空軍基地を、またバハレーンに対しては海軍基地を引き続き利用できることなのである。

 

 トランプ政権にとって武器の輸出拡大は国内産業を活性化し雇用を確保することにつながり選挙公約を実現する手段となる。そしてペルシャ(アラビア)湾に自国の空軍基地、海軍基地を維持することはイラン、トルコ或いはロシアににらみを利かせイスラエルを支えるという「偉大な米国」或いは「アメリカ・ファースト」政策にピッタリなのである。付け加えて言うなら民主党政権を破り共和党政権を樹立したトランプは中東から太平洋に軸足を移そうとしたオバマの足跡を消し去ることで自己の存在感を高めようとしていると考えられなくもない。

 

 彼の中東外交はさしあたり成功しているようである。オバマ時代に最悪になった米国とサウジアラビアの関係は劇的に改善し、サウジアラビアを最初の外国訪問地に選んだトランプ大統領はサルマン国王から大歓迎を受け1,100億ドルと言われる巨額の武器契約を取り付けたのである[2]。そしてカタールのウデイド空軍基地はイスラム国(IS)の偵察基地、攻撃発進基地として成果を上げている。これはシリア・アサド政権と結託し中東でのプレゼンスを高めていたロシアを抑え込む効果も発揮している。

 

 米国ではティラーセン国務長官が紛争の調停に当たった。因みにティラーセンは国務長官就任前は国際石油企業ExxonMobilのCEOであった。ExxonMobilはサウジアラムコ創設時のメンバーであり、現在もサウジアラビアと深いつながりがある。同時にExxonMobilはカタールの天然ガス事業にも合弁事業として参加している。このためティラーセンはCEO時代に頻繁にサウジアラビアとカタールを訪問しておりそれぞれの事情に精通した第一人者である。

 

 しかし外交問題の責任者としての国務長官とこれまでの民間企業CEOとではかなり勝手が違ったようである。ティラーセンはサウジアラビアとカタールそして仲介役のクウェイトを精力的に駆け巡るシャトル外交を展開したが思うような結果は出なかった[3]

 

 最近の報道ではクウェイトの調停が実を結んだのであろうか、UAEからは態度軟化のシグナルが出ている。そして28日にはカタールのタミーム首長が外交関係修復のための協議に応じるとテレビで演説した[4]。彼が一連の問題について発言するのは6月初めの国交断絶以来1か月半ぶりのことである。4か国とカタールが一刻も早く無益な対立を解消することを願うばかりである。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] Demands presented unreasonable: Doha

2017/6/25 Arab Times

http://www.arabtimesonline.com/news/demands-presented-unreasonable-doha/

[2] US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom

2017/5/21 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1102646/saudi-arabia

[3] No light seen at the end of Qatar tunnel

2017/7/13Saudi Gazette

http://saudigazette.com.sa/article/512813/SAUDI-ARABIA/Rex-Tillerson

[4] Emir says Qatar ready to talk but "sovereignty must be respected"

2017/7/21 The Peninsula

http://www.thepeninsulaqatar.com/article/21/07/2017/Emir-says-Qatar-ready-to-talk-but-sovereignty-must-be-respected

 

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今週の各社プレスリリースから(7/16/7/22)

2017-07-22 | 今週のエネルギー関連新聞発表

7/18 出光興産 発行新株式数の確定に関するお知らせ  

7/19 出光興産 株主による新株式発行の差止め仮処分の申立ての却下決定に対する 即時抗告の棄却決定に関するお知らせ  

7/19 国際石油開発帝石 オーストラリア イクシスLNG プロジェクト 沖合生産・貯油出荷施設(FPSO)の出航について  

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(7月21日)

2017-07-21 | 今日のニュース

・OPECのNo2ポスト調査部長にサウジ石油省出身のAyed Al-Qahtani任命

・カタールとノルウェー企業がLNGの海上再液化設備(FSRU)を途上国で展開

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(15)

2017-07-20 | BP統計

 

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

2017.7.20

前田 高行

 

5.世界の石油精製能力(続き)

(対照的な1位米国と2位中国、設備拡張に走る米国と過剰設備解消に乗り出した中国!)

(2)   国別石油精製能力

(表http://bpdatabase.maeda1.jp/1-5-T01.pdf 参照)

 世界で最も高い精製能力を有する国は米国で、2016年は1,862万B/D、世界全体の19%の設備を所有している。第二位は中国の1,418万B/D(シェア15%)であり、両国だけで世界の3分の1の精製能力がある。精製能力1千万B/D以上はこの2カ国だけであり、第3位のロシアは642万B/Dである。

 

 2011年に日本を追い抜いたインドの2016年の精製能力は462万B/Dで対前年比7.3%増である。一方の日本は前年より3.2%減の360万B/Dとなり両国の差は広がっている。石油消費量でも日本の404万B/Dに対してインドは449万B/Dと日本を上回っている。日本では経済産業省の主導で精製設備の集約が推し進められる一方、インドは慢性的な精製設備不足に悩まされており(次項「精製能力の推移」及び主要国の「製油所稼働率」参照)、両国の精製能力の格差は今後ますます広がるものと思われる。

 

 日本に次いで高い精製能力を有するのは韓国(323万B/D)で、さらに第7位以下はサウジアラビア(290万B/D)、ブラジル(229万B/D)、ドイツ(202万B/D)である。これら3か国のうち精製能力が前年を下回ったのはドイツだけであり、日本とドイツで精製設備の集約が進んでいることをうかがわせる。サウジアラビアは原油の生産国であるが国内に数ヶ所の輸出専用製油所が稼働しており、石油製品の輸出により付加価値の増大を追求しているが、それと共に国内の石油製品の需要が急増しているため製油所の新設が相次いでいる。

 

 精製能力を前年と比較すると米国の能力増加率は+1.7%であり上位10カ国のなかではインド(+7.3%)、韓国(+4.0%)に次いで高い。原油価格の下落により精製コストのうち原料費が大幅に低下、石油産業では上流部門(原油販売)よりも下流部門(石油製品販売)が儲かる体質となっており、米国の石油業界では付加価値の高い石油精製への方向転換が進んでいるようである。

 

(続く)

 

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(14)

2017-07-19 | BP統計

 

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

2017.7.19

前田 高行

 

5.世界の石油精製能力

(アジア・大洋州に世界の精製能力の3分の1が集中!)

(1)   地域別精製能力

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-5-G01.pdf 参照)

 2016年の世界の石油精製能力は日量9,743万バレル(以下B/D)であった。地域別でみるとアジア・大洋州が3,283万B/Dと最も多く全体の34%を占め、次に多いのが欧州・ユーラシアの2,330万B/D(24%)及び北米の2,211万B/D(23%)であった。これら3地域で世界の精製能力の8割を占めている。その他の地域の精製能力と世界に占める割合は、中東(948万B/D、10%)、中南米(626万B/D、6%)、アフリカ(346万B/D、3%)である。

 

 後述する通りアジア・大洋州の精製能力は1990年代後半に北米を追い抜き、さらに2000年代後半には欧州・ユーラシア地域を抜いて世界最大規模となったのであるが今後この傾向が定着するものと思われる。

 

 地域別の精製能力と消費量(本稿3(1)参照)を比較すると中東は世界全体に占めるシェアが同じであり、アジア・大洋州、アフリカ及び中南米は精製能力と消費量のシェアの差がわずか1%である。また北米は消費量シェア25%に対して精製能力シェアは23%と消費量シェアの方が若干高い。これに対して欧州・ユーラシア地域は精製能力シェア24%、消費量シェア19%でありその差が大きい。

 

 原油は消費地でガソリン、ナフサ、灯油、重油などに精製され消費されるのが通常である(消費地精製主義)。それにもかかわらず欧州・ユーラシアのバランスに差があるのは、石油消費の先進地であった欧州・ユーラシアが1970年代に精製能力を急激に拡張し、その後の石油消費の鈍化により過剰設備を抱えてしまったことを意味する。

 

 アジア・大洋州で精製能力と消費量がバランスしているのは発展途上国が多く、増大する石油の消費と精製設備の新増設が並行しているためであろう。但し後述するように(「製油所稼働率」の項参照)消費と精製能力のバランスは同じアジア地域においても日本が過剰設備を抱える一方、東南アジアでは慢性的な精製能力不足であるように国によって事情が大きく異なる。

 

(続く)

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(7月19日)

2017-07-19 | 今日のニュース

・原油価格上昇。Brent $49.12, WTI $46.67

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BPエネルギー統計2017版解説シリーズ:石油篇 (13)

2017-07-18 | BP統計

 

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

2017.7.18

前田 高行

 

(下げ止まらない原油価格!)

4.指標3原油の年間平均価格と1976~2016年の価格推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-4-G01.pdf 参照)

 ここでは国際的な原油価格の指標として使われる米国WTI(West Texas Intermediate)原油、英国北海Brent原油及びドバイ原油の3種類の原油の年間平均価格(ドル/バレル)とその推移を検証する。

 

 2016年の3原油の年間平均価格はBrent原油は43.73ドル(バレル当たり。以下同様)、WTI原油43.34ドル、ドバイ原油41.19ドルでありBrent価格を100とした場合WTI原油は99、ドバイ原油は94であり、WTIとBrentの値差はほとんどなかった。

 

 これら3原油の1976年以降の価格の推移は2010年頃までほぼ同じような歩みを示している。Brent原油で見ると、1976年の同原油の年間平均価格は12.80ドルであった。1979年の第二次オイルショックを契機に価格は急騰、1980年には約3倍の36.83ドルに達した。その後景気の低迷により価格は一転して下落、1986年には14.43ドルと第二次オイルショック前の状況に逆戻りしている。

 

 この状況は1990年代も続きBrentの年間平均価格は20ドル前後で推移している。ところが1998年の12.72ドルを底に急激に上昇に転じ1999年は17.97ドル、2000年には28.50ドルとわずか2年で2倍以上に急上昇した。その後一旦下落したものの2003年からは上げ足を速め2004年には40ドル弱、2005年に50ドルの大台を超えるとさらに急騰、2008年の年央にはついに史上最高の147ドルに達し、同年の平均価格も100ドル目前の97.26ドルを記録している。

 

 同年のリーマンショックで2009年には一旦61.67ドルまで急落したが、再び上昇気流に乗り2011年の年間平均価格はついに100ドルを超えて111.26ドルになり、その後2012年、2013年も平均価格は110ドル前後と原油価格は歴史的な高値を記録、これは2014年前半まで続いた。

 

 しかしその数年前から米国のシェールオイルの生産が急激に増えた結果、市場では供給圧力が増し、Brent原油価格は米国WTI原油に引きずられ弱含みの状況になった。これに対してOPECは2014年6月の定例総会で生産目標3千万B/Dの引き下げを見送ったため市況は一挙に急落、年末にはついに50ドル割れの事態となった。2015年前半は一時60ドルまで値を戻したが、後半はさらに値下がりし、年末には40ドルを切った。この結果Brent原油の2015年の年間平均価格は52.39ドルとなりわずか2年間で半値以下に暴落している。

 

 暴落した最大の要因はOPECが減産調整できずサウジアラビアなど主要産油国が増産に走ったことにある。これに世界景気の停滞が拍車をかけ需給バランスが完全に崩れ原油価格が暴落したのである。サウジアラビアは近年の米国シェールオイルの増産が価格崩壊の主要因と見ており、価格を低水準に抑えることでシェールオイルを抑え込む戦術を取ったとされる。

 

 しかしOPECの戦術は功を奏さず、シェールオイルの生産業者が技術革新によりコスト削減に努めた結果、原油市場の供給圧力は収まらず2016年年初には30ドルを割る状況となり同年の年間平均価格はBrent原油が43.73ドル、WTI原油は43.34ドルにとどまっている。このような低価格によりOPEC産油国は財政難に陥り減産の機運が生まれた。OPECはロシアなど非OPEC産油国を巻き込んだ協調減産体制を構築し、今年1月以降来年3月迄合計180万B/Dの減産を実施中である。現在(2017年7月)Brent原油は45ドルから50ドルの間を上下しており、このまま推移すれば昨年の平均価格を上回ると見込まれるが、協調減産を行っているサウジアラビアやロシアが見込んでいる50ドルあるいは60ドル以上の価格上昇は相当厳しく、2011年から2013年にかけての100ドルを超す価格の再来はとても期待できない状況である。

 

Brent、WTI、ドバイ3原油の1976年以降の価格を比較すると、まず1976年の3原油の平均価格はBrent 12.80ドル、WTI 12.23ドル、ドバイ 11.63ドルでBrentが最も高かった。しかし1980年になるとBrent 36.83ドル、WTI 37.96ドル、ドバイ 35.69ドルとなり、3原油の中でWTIが最も高くなった。これ以降2009年まで年間平均価格はWTIがBrentを上回る状態が続いた。

 

(続く)

 

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BPエネルギー統計2017年版解説シリーズ:石油篇(12)

2017-07-17 | BP統計

(注)本シリーズ1~18は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。 

http://mylibrary.maeda1.jp/0417BpOil2017.pdf

2017.7.17

前田 高行

 

(石油自給率が改善する米国、悪化する中国!)

(5)石油の需給ギャップおよび自給率の変化(1990年~2015年)

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-3-G04.pdf 参照)

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-3-G05.pdf 参照)

 石油生産国の中でも人口が多く産業規模の大きな国は同時に多くの石油を消費する。例えば米国と中国はそれぞれ世界1位と5位の産油国であるが、消費量では世界1位と2位である。両国を合わせた世界シェアは生産量で18%、消費量では33%に達する。両国とも消費量が生産量を上回るため、米国は1965年以前から既に石油の輸入国であり、中国は1990年代前半に輸入国に転落している。

 

 米国の場合2015年は生産量1,270万B/Dに対して消費量は1,940万B/Dであり、差し引き669万B/Dの需要超過で石油自給率は65%となる。1965年に78%であった米国の石油自給率は年々低下し1990年代には50%を切り、そして2000年代は40%を割るなどほぼ一貫して低下してきた。しかし同国の自給率は2007年の33%を底に改善しつつあり、2015年にはついに65%に達している。現在米国は必要な石油の6割以上を自国産原油で賄っていることになる。

 

 一方、中国の場合1992年までは生産量が消費量を上回り自給率100%であったが、その後純輸入国に転じている。しかも生産と消費のギャップは年々広がり、2000年に153万B/Dであった需給ギャップが2015年には766万B/Dに拡大している。この結果2000年には69%であった自給率も急速に悪化し、2007年に50%を割り、2015年は36%まで落ち込んでいる。米国と逆に中国は必要な石油の6割以上を輸入に頼っていることになる。

 

 インドも中国同様に年々需給ギャップが拡大している。1990年の同国の需給ギャップは50万B/Dであり、自給率は59%であった。その後需給ギャップは2000年に144万B/D、2010年に244万B/Dと年々拡大しており、2015年は328万B/Dに達している。その結果2016年の自給率は19%にまで低下している。

 

 英国とインドネシアを見ると、かつて英国は北海で多くの石油を生産し、またインドネシアはOPECの有力な産油国として余剰生産量を輸出する石油の輸出国であったが、近年は両国とも油田が枯渇して生産量が減退する一方、国内消費量は年々増加した結果、石油の自給率が100%を切るようになっている。即ち英国の場合、2000年は生産270万B/Dに対して消費量は171万B/D自給率は157%であったが、その後自給率は急速に悪化、2016年の自給率は63%にとどまっている。

 

 インドネシアも同様で1990年は生産量154万B/D、消費量65万B/Dで輸出余力は89万B/Dであった。しかし2000年代前半には自給率が100%を切る石油の純輸入国になっている。そのため同国はOPECを脱退したほどである。同国の自給率はその後も年々悪化し2016年は55%と、必要な石油の半分は輸入に頼っている。

 

 その一方、ブラジルは深海油田の開発に成功し2000年末に85億バレルであった埋蔵量が2016年末には126億バレルにアップしており(第1章4項「8カ国の石油埋蔵量の推移」参照)、これに伴って生産量も急増している(第2章4項「主要産油国の生産量の推移」参照)。このため1990年に46%であった同国の自給率は2016年には86%にまで高まっている。

 

(石油篇消費量完)

 

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今週の各社プレスリリースから(7/9-7/15)

2017-07-15 | 今週のエネルギー関連新聞発表

7/10 JOGMEC JOGMEC Techno Forum 2017 開催のお知らせ 

7/11 Shell Shell purchases deep-water production and storage vessel  

7/11 Total Qatar: Total celebrates the start of operations on the giant Al-Shaheen oil field alongside Qatar Petroleum  

7/12 出光興産 発行価格等の決定に関するお知らせ  

7/12 昭和シェル石油 昭和シェル石油グループ サウジアラビア王国における硫化水素の分解に関する共同事業に参画 

7/12 国際石油開発帝石 ガスバリューチェーン・ビジネスの展開に向けた組織改編について -事業開発ユニットの新設-  

7/12 国際石油開発帝石 幹部社員の人事異動について  

7/13 ExxonMobil ExxonMobil Acquires Interest in Acreage Offshore Suriname  

7/14 経済産業省 「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会(これまでの論点整理)」を公表しました 

7/14 経済産業省 我が国の石油・天然ガスの自主開発比率(平成28年度)を公表します 

7/14 JOGMEC 神戸大学と資源・エネルギー分野での連携・協力協定を締結~共同研究、人材交流・養成等の連携・協力等の推進へ~ 

7/14 JXTGエネルギー/東京ガス 川崎天然ガス発電所3・4号機増設計画の事業化検討の中止について 

 

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