シリアではどんなビールが飲まれているのでしょうか。
昨年夏にフィレンツェからダマスカスへ到着した当初、同行した友人のイタリア人男子(彼は前年の夏もダマスカスに短期留学していた)から、
「くれぐれもシリアビールのバラダにだけは近づいてはならぬぞ。かわりにレバノンビールのアル・マーザを飲むがよかろう」という忠告を受けました。さっそく飲み比べてみたのですが、彼は正しかったです。飲食物に関するイタリア人の助言をあなどってはいけませんね。
・「バラダ」~シリア国産ビール
「バラダ」とは唯一のダマスカス産ビールで、その名前はこの古い街を流れる(水があるときは)バラダ川に由来しています。ずんぐりした不恰好な緑色の大瓶に入っており、値段はちょっと覚えていないのですが、他のビールより確実に安かったです。それゆえ財布に余裕がなく、味にこだわりのない普通のシリア人たちはバラダを買っていくようです。
一口飲んでみると、今まで飲んだどのビールとも違う、なんだか不思議な味がしました。妙に酸っぱいんです。モルトのコクがなくて、喉ごしがビールらしくないんです。普通のビールをコップに注いで、日なたにしばらく置いといたような味、とでも言いましょうか。白く泡が立って金色をしていて、ビールと呼ばれているけれども、実はこれはビールとは違う飲み物なのでは、という考えがふとよぎりました。
シリア在住欧米人たちはこのシリア国産ビールをペストのように避けており、レストランなどでビールを注文する際も、決してバラダを持ってこないように、とあらかじめウエイターに念押ししたりしています。バラダをおいしいと言う欧米人を私は一人しか知りません。彼は私の元同居人のフランス人男子(共同アパートを5人でシェアしていた)で、当惑する私を尻目に、「え、なんで?これおいしいよ」といって涼しい顔でぐいぐい飲んでいました。フランス人の味覚に疑問が生まれた瞬間です。
ちなみにシリア国産ビールとしては、もうひとつアレッポ製の「アッシャルク(アラビア語で‘東’の意)」があります。アレッポの、アルメニア人が経営するカフェ・レストランで一度だけ飲みましたが、「モルトを多めに入れた、酸味控えめのバラダ」という感じでした。つまりバラダよりは大分まし。
・「アル・マーザ」~レバノン産ビール
お隣の国レバノンからやってきた「アル・マーザ(アラビア語で‘ダイヤモンド’の意)」は、バラダと正反対の評判を誇っています。だいたいレバノン産だというだけで、もう安心感があります。美味しいもの、気の効いたものは全てレバノンからやってくるという噂もあります。シリアと違って資本主義が発達しているせいでしょう。このビールはスリムで優美な緑色の小瓶に入っていて、なんとなく「ビールの王女様」と呼びたくなるような外観だし、中味もこの印象を決して裏切りません。しっかりしたコクがあり、キレのいいシャープな喉ごしで、「ああ、わたしは今ビールを飲んでいるのね」という本能的(?)な喜びを与えてくれるのです。バラダをペストのように避ける人たちは、このアル・マーザの敬虔な信者であることが多いです。アル・マーザの悪口を言う人に出会ったことは未だかつてありません。
昨年夏にフィレンツェからダマスカスへ到着した当初、同行した友人のイタリア人男子(彼は前年の夏もダマスカスに短期留学していた)から、
「くれぐれもシリアビールのバラダにだけは近づいてはならぬぞ。かわりにレバノンビールのアル・マーザを飲むがよかろう」という忠告を受けました。さっそく飲み比べてみたのですが、彼は正しかったです。飲食物に関するイタリア人の助言をあなどってはいけませんね。
・「バラダ」~シリア国産ビール
「バラダ」とは唯一のダマスカス産ビールで、その名前はこの古い街を流れる(水があるときは)バラダ川に由来しています。ずんぐりした不恰好な緑色の大瓶に入っており、値段はちょっと覚えていないのですが、他のビールより確実に安かったです。それゆえ財布に余裕がなく、味にこだわりのない普通のシリア人たちはバラダを買っていくようです。
一口飲んでみると、今まで飲んだどのビールとも違う、なんだか不思議な味がしました。妙に酸っぱいんです。モルトのコクがなくて、喉ごしがビールらしくないんです。普通のビールをコップに注いで、日なたにしばらく置いといたような味、とでも言いましょうか。白く泡が立って金色をしていて、ビールと呼ばれているけれども、実はこれはビールとは違う飲み物なのでは、という考えがふとよぎりました。
シリア在住欧米人たちはこのシリア国産ビールをペストのように避けており、レストランなどでビールを注文する際も、決してバラダを持ってこないように、とあらかじめウエイターに念押ししたりしています。バラダをおいしいと言う欧米人を私は一人しか知りません。彼は私の元同居人のフランス人男子(共同アパートを5人でシェアしていた)で、当惑する私を尻目に、「え、なんで?これおいしいよ」といって涼しい顔でぐいぐい飲んでいました。フランス人の味覚に疑問が生まれた瞬間です。
ちなみにシリア国産ビールとしては、もうひとつアレッポ製の「アッシャルク(アラビア語で‘東’の意)」があります。アレッポの、アルメニア人が経営するカフェ・レストランで一度だけ飲みましたが、「モルトを多めに入れた、酸味控えめのバラダ」という感じでした。つまりバラダよりは大分まし。
・「アル・マーザ」~レバノン産ビール
お隣の国レバノンからやってきた「アル・マーザ(アラビア語で‘ダイヤモンド’の意)」は、バラダと正反対の評判を誇っています。だいたいレバノン産だというだけで、もう安心感があります。美味しいもの、気の効いたものは全てレバノンからやってくるという噂もあります。シリアと違って資本主義が発達しているせいでしょう。このビールはスリムで優美な緑色の小瓶に入っていて、なんとなく「ビールの王女様」と呼びたくなるような外観だし、中味もこの印象を決して裏切りません。しっかりしたコクがあり、キレのいいシャープな喉ごしで、「ああ、わたしは今ビールを飲んでいるのね」という本能的(?)な喜びを与えてくれるのです。バラダをペストのように避ける人たちは、このアル・マーザの敬虔な信者であることが多いです。アル・マーザの悪口を言う人に出会ったことは未だかつてありません。