ご近所に住む中国人の王さんと久しぶりに会った。
数年前にご主人を亡くされて、二人のお子さんは独立したので、今は一人暮らしをしている。
王さんは長く勤めていた会社を退職したそうで、ほぼ一日中家にひとりでいるそうだ。
仕事を辞めて外の世界と繋がりが少なくなったせいか、日本語が以前よりもたどたどしくなっていた。
途中で日本語がわからなくなって、話が途切れる。
話の流れからして、きっとこのように言いたいのだろうと見当をつけて、単語をいくつか言ってみると、何番目かの単語で「そうそう、それねー」と言われるのが、まるで当たりくじを引いたように嬉しくなる。
スムーズな会話にはならないが、王さんとのおしゃべりはいつも楽しい。
最近の話題は、もっぱら家庭菜園についてで、王さんの庭を見せてもらったら、所狭しと色々な野菜の苗が植えてあった。
そして、それらほとんどの野菜は、去年植えた野菜から種をとっておいて育てたと聞いて驚いた。
例えばミニトマト。
たまに苗を植えていない場所からミニトマトの芽が出ていることがあるが、それは収穫せずに放っておいた実から種がこぼれて、翌年に芽が出たもの。
王さんは、放っておいたのではなくて、わざわざミニトマトから種を採っておいて、家の中で発芽させたそうだ。
豆類も昨年収穫したものを使って育てているし、じゃがいもは台所で芽が出てしまったのを植えたそうだが、台所のじゃがいもでもこんなに大きくなるんだと思うほど立派に育っていた。
「種芋じゃないから、実がなるかわからないねー」と言うが、大きな葉っぱからして、お芋も大きくなるのではないかと期待してしまう。
そのじゃがいもだが、段ボールを使って植えていることに驚いた。
庭の土地に植えるスペースが無くなったので、段ボールをプランター代わりにしたそうで、段ボールは雨が降っても、一年くらいは大丈夫だとか。
「野菜だけじゃないよ。花も育てているよ」と言って見せてくれたのは、綺麗なお花がたくさん咲いたプランター。
「何ていう花?」と聞いたら春菊だと教えてくれた。
葉っぱ部分は食べてしまい、残したものから花が咲いたそうだ。
ちなみに、春菊は百均で買ってきた種で育てたという。
私もプランターで春菊を育てているが、私が買ったのは一つ100円の苗。
百均の種なら、一つ100円の苗がいくつできるのだろうか。
種にすればよかったと後悔。来年の参考にしようと思う。
とにかく王さんは、出来るだけお金をかけずに家庭菜園をやっているところがすごい。
そして毎日、手をかけて育てているだけあって、どの植物もみんな元気でイキイキしている。
植物を上手に育てる人をグリーンフィンガーズと言うが、王さんはまさにグリーンフィンガーズだと思った。
「買う前に、あるものでできないかと考えるよ」と教えてくれた。
今は、お店に行けば何でも売っていて、それを買ってくれば簡単だけど、自分で工夫して生活している王さんからは、教えてもらうことが多い。
今度から王さんを「お師匠」と呼ぼうかな。
そしてお返しに、私が日本語を思い出す相手をしてあげたらいいかもしれない。
まずは、春菊と段ボールプランターを真似して見よう。