【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会会長代行 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

「火神」主宰 「俳句大学」学長 「Haïku Column」代表 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞/中村青史賞

〜 季語で一句 (49) 〜『くまがわ春秋』2023年12月号(第93号)

2023年12月01日 20時57分25秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
俳句大学投句欄よりお知らせ!
 
〜 季語で一句 (49) 〜
 
◆『くまがわ春秋』2023年12月号(第93号)が発行されました。
◆Facebook「俳句大学投句欄」で、毎週の週末に募集しているページからの転載です。
◆お求めは下記までご連絡下さい。
・info@hitoyoshi.co.jp 
 ☎ 0966-23-3759
 
永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R5.12月号)
 
行く秋(ゆくあき)     「秋-時候」
 
檜鼻幹男
行く秋や二行書きては破る文
【永田満徳評】
「書きては」の助詞「は」の使い方がポイント。「二行」書いたところで、何度も、「文」を破っているのである。名残惜しい気持の行く秋と、心残りのする恋文とをうまく取り合わせていて、心惹かれる。
【季語の説明】
「行く秋」は「秋去る」とともに、過ぎさってゆく秋のことで、秋から冬へと移ろい行くさま。秋の季節の終わりを指す。去り行く秋を見送る思いがこもり、寂寥感に満ちて、秋を惜しむ気持が現れた季語。移ろい行く季節を、旅人になぞらえて「行く」と形容するが、春と秋だけのもので、「行く夏」「行く冬」とはいわない。
 
 
後の月(のちのつき)     「秋―天文」
 
中野千秋
身の飾り外してよりの十三夜
【永田満徳評】
服飾を着飾った時よりも、「身の飾り外して」、くつろいだ時の気持の良さを表現している。名月とは違った趣向の「十三夜」と取り合わせることによって、余裕のある、粋な女性を表現したところがいい。
【季語の説明】
「十三夜」は「十五夜」に次いで美しい月とされていて、栗や豆の収穫期に当たるため、「栗名月」「豆名月」と呼ばれる。十三夜は旧暦の9月13日で、現代の暦では年ごとに異なる。十三夜の月を鑑賞するという風習があるのは日本独自のもの。名月とは違った趣を楽しもうという日本人独特の美意識が働いている。
 
 
狐(きつね)        「冬―動物」
 
西村楊子
ふさふさの尾をひたひたと銀狐
【永田満徳評】 
「銀狐」は銀色に輝く毛並みで、モフモフ毛に長い尻尾が特徴。雪原の上、前足の跡に後ろ足を乗せて、一本のラインを残しながら歩く。オノマトペだけを使って、銀狐の尻尾と歩行の特徴を見事に描いている。
【季語の説明】
「狐」はイヌ科の中でも群れを作らず、食性は雑食で、毛や耳の長さによって異なる種類がある。人を化かす動物と考えられたり、稲荷神社の神の使として信仰されたりしている。狐は女はもちろん、妖怪、灯籠、馬や猫に化けるほか、雨(狐の嫁入り)や雪の自然現象を起こすなど、バリエーションに富んでいる。
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〜 季語で一句 (48)〜『くまがわ春秋』2023年11月号(第92号)

2023年11月01日 20時42分37秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
俳句大学投句欄よりお知らせ!
 
〜 季語で一句 (48)〜
 
◆『くまがわ春秋』2023年11月号(第92号)が発行されました。
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R4.11月号)
 

鵙(もず)            「秋-動物」

 

牧内登志雄

  •  

真言の山渡りゆく鵙の声

【永田満徳評】

「鵙の声」は鵙が木のてっぺんなどで鋭く鳴く声。「真言の山」とは真言宗の高野山金剛峯寺のような山であろう。「鵙の声」が山の中を「真言」の読経のように鳴き渡る宗教の山の雰囲気がよく描かれている。

【季語の説明】

「鵙」は農耕地や林緑、川畔林などに生息。小さな体でありながらも肉食性で、鷹のように鋭い鉤状の嘴を持つ。生け垣などのとがった小枝や、有刺鉄線のトゲなどに、バッタやカエルなどの獲物を串ざしにする変わった習性があり、「鵙の贄」と呼ぶ。江戸時代は凶鳥で、鵙が鳴く夜は死人が出ると信じられていた。

 

甘藷(さつまいも)        「秋―植物」

 

外波山チハル

  •  

甘諸食ふ口角あげてはひふへほ 

【永田満徳評】

「甘諸」は栽培しやすく、高い栄養で健康食材。秋も深まり、寒い季節になると食べたくなるものはふかしたての甘諸である。「はひふへほ」にはいかにも美味しそうに食べている様子がうまく描かれている。

【季語の説明】

「甘藷」は漢名で、薩摩芋のこと。唐芋・琉球薯などとも呼ばれる。17世紀に琉球から薩摩へ伝わり、薩摩地方でよく栽培されて、生産量は鹿児島県が全国1位で特産品である。青木昆陽は栽培を関東に普及させ、大飢饉で多くの人々の命を救った。日本では数十種類が栽培され、新しい品種も次々誕生している。

 

菊(きく)           「秋―植物」

 

茂木寿夫

  •  

残照や菊置かれある事故現場 

【永田満徳評】 

「菊」は「霊薬」であるといわれ、延寿の効があると信じられていた。何らかの「事故」で亡くなった「現場」に「菊」が手向けられている情景だろう。秋の「残照」が慰霊するかのように照り渡っている。

【季語の説明】

「菊」はキク科の多年草。日本の秋を代表する菊。皇室の紋にも使用されている。菊には延命長寿の滋液があるとされて、平安時代に宮廷で菊酒を賜る行事が行われた。原産は中国で、不老不死の薬草、縁起の良い植物として扱われている。菊は竹、梅、蘭と並んで、四君子と呼ばれ、美しく尊い花となっている。

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〜 季語で一句 (47)〜『くまがわ春秋』2023年10月号(第91号)

2023年10月02日 20時14分48秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
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〜 季語で一句 (47)〜
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R5.10月号)
 
二百十日(にひゃくとおか《にひやくとをか》)  「秋-時候」
大工原一彦
汚染から処理へと変はる水厄日
【永田満徳評】
稲の開花期に、台風が襲来することもあって、「厄日」とされている。原発事故による「汚染水」を処理して、「処理水」と呼んでいることへの違和感をうまく「厄日」という季語と取り合わせて詠んでいる。
【季語の説明】
立春から数えて二百十日目。日付ではおよそ9月1日ごろ。厳しい暑さも和らぎ、秋へ向けて過ごしやすくなる。しかし、台風の多い日、風の強い日といわれ、稲の開花期にもあたることから、この日を無事に過ぎてほしいという農家の願いから「厄日」ともいわれている。
別れ烏(わかれからす)    「秋―動物」
大工原一彦
子別れ烏相続税か贈与税
【永田満徳評】
「烏の子別れ」は 親との別れが遅く、秋に単独で飛んでいるのを「別れ烏」「烏の子別れ」とも言う。財産を相続、贈与することは「烏の子別れ」の儀式に似ていて、「別れ烏」とうまく取り合わせている。
【季語の説明】
一般的な鳥は巣立ちが親子の別れとされる。烏の子は巣立ちから群れで行動することが多く、親との別れが遅くなるという。秋に単独で飛んでいる烏に対して、「親や子と別れた烏」と見なし、「烏の子別れ」として季語にしている。烏は一夫一婦制の動物で、1度つがいになると、生涯そのペアが解消されることはない。
蜩(ひぐらし)        「秋―動物」
佐竹康志
蜩のやがて汀の音となる 
【永田満徳評】 
「蜩」は夕暮れ時に特によく鳴く。秋の夕方に鳴く蜩の声にはひときわ味わい深い。澄んだ鈴を振るような声でカナカナと鳴く「蜩」の特徴的な声が「汀の音」に重なるという表現に詩的な感性を感じる。
【季語の説明】
「蜩」という名の通り、夕暮れに特に鳴く蟬。日本ではその鳴き声から カナカナ 、 カナカナ蟬 などとも呼ばれる。すでに晩夏から鳴き出し、夕暮れに限らず、明け方に鳴くこともある。夏の終わり頃の朝夕に聞く蜩の声は、一種の哀調のある声が遠くまで響き、他の蟬とは違って、秋の気配を少しながら感じさせてくれる。
 
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〜 季語で一句 46 〜2023年『くまがわ春秋』9月号(第90号)

2023年09月01日 20時30分01秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
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〜 季語で一句 46 〜
 
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R5.9月号)
 
 
夜の秋(よるのあき) 「夏-生活」
 
 
外波山チハル
湯上がりの髪梳く指や夜の秋 
【永田満徳評】
どことなく秋めいた感じのする夜の「湯上がり」の「髪」を詠んでいる。洗い髪はさっぱりとして気持がいいが、「夜の秋」であればなおさら秋めいて感じる。「夜の秋」という季語のもつ感じをよく捉えている。
【季語の説明】
「夜の秋」は夏の夜に感じる秋の気配という意味で、夏の終り頃、夜になると、何となく秋めいた感じのする夏の季語。去りゆく夏に一抹の寂しさを感じる。個人の受ける「気配」「感じ」が主体である。「よるのあき」「よのあき」と読むこともある。近代以降は夏の季語として使われ、秋の季語である「秋の夜」のことではない。
 
 
合歓の花(ねむのはな)     「夏-植物」
 
桧鼻幹雄
合歓の花獏に喰はれしやうな朝 
【永田満徳評】
「合歓」とは夜になると、小葉を閉じるので「眠(ネム)」と付いた。「獏」は幻獣で、人の悪夢を食うという。悪夢を見ず、充分に眠り、すっきりした朝を迎えたことを「獏に喰はれし朝」と表現したところがいい。
【季語の説明】
「合歓の花」は淡いピンク色の花を咲かせる落葉樹である。痩せた土地に育つ樹木の代表的な植物。夜になると葉を閉じることから「眠りの木」、転じて「ネムノキ」と呼ばれるようになった。万葉集の時代から愛されている。漢字表記の「合歓」は男女が一緒に眠ることで、中国では夫婦円満の象徴として親しまれている。
 
 
西瓜(すいか《すいくわ》)  「秋-植物」
 
森川雅美
どつしりと西瓜置かるる敗戦後
【永田満徳評】 
大玉の「西瓜」が今にも切り分けられている情景であろう。西瓜に代表されるような「敗戦後」の豊かさに思いを馳せて、いつまでも豊かで平和な日々が続いてくれることを願っているところに心惹かれる。
【季語の説明】
「西瓜」は夏から秋にかけての代表的な果菜。形は球形または楕円形で大きくほとんどの果皮に縞模様がある。果肉は赤色が普通でまれに黄色もある。多汁で甘い。最も甘くなる旬は立秋を過ぎたお盆の頃であるため、秋の季語とされる。果肉の水分が90%もあるジューシーな果物。英語ではウォーターメロンという。
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〜 季語で一句 45 〜 2023年『くまがわ春秋』8月号(第89号)

2023年08月07日 15時48分00秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」

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〜 季語で一句 45 〜
 
◆2023年『くまがわ春秋』8月号(第89号)が発行されました。
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明


季語で一句(R5.8月号)
 
泳ぎ(およぎ)                      「夏-生活」
 
中野千秋

 水を愛で水に親しむ平泳ぎ
【永田満徳評】
「平泳ぎ」の両手はハートを逆さまに描くように水をかき、蹴り出した両足を挟むようにしてキックする。「平泳ぎ」はまさに「水を愛で」の泳ぎ方で、「水に親しむ」という措辞は平泳ぎの特徴を捉えている。                                           
【季語の説明】
「泳ぎ」は代表的な夏の遊びで、海、川、プールなどで泳ぐこと。中世の日本では水の中を泳ぐ技術は武術の1つで、日本泳法と呼ばれる。「水術」「水練」「踏水術」「游泳術」「泅水術」などがある。現代では水泳はレクリエーションやスポーツとして行われている。遠泳、クロール、背泳ぎなども「泳ぎ」と同じ季語である。
 
 
団扇(うちわ《うちは》)        「夏-生活」
 
野島正則

秩父路の兜太直筆古団扇  
【永田満徳評】
兜太直筆の「古団扇」とは兜太の俳句が描かれた「俳句うちわ」。骨太で力強い筆致で描かれている。「兜太直筆古団扇」という措辞に、野生の人で、なまなましく生きた兜太その人をうまく切り取っている。       
【季語の説明】
「団扇」は紙を竹の骨に張って、柄を付けたもので、夏に涼を得るためにあおいで風を起こす道具。焚物の火を盛んにしたり、蚊や蝿を追うなど用途はさまざま。古来、「はらう」「かざす」ためのもので、儀式、縁起、軍配、行司、信仰、占いなどに使われた。絵が描かれた絵団扇や柿渋を塗った丈夫な渋団扇がある。
 
 
羽抜鳥(はぬけどり)       「夏-動物」 
 
野島正則

年金の繰り下げ受給羽抜鳥
【永田満徳評】 
「羽抜鳥」はみじめで滑稽なさまに例えられる。年金受給が繰り下げは年金を多く支給されることで、それだけ働かなければならない。庶民の老後へ備えに対する選択を「羽抜鳥」に例えているところがいい。              
【季語の説明】
「羽抜鳥」は鳥類の羽の抜けかわりのこと。鳥の全身の羽毛が冬羽から夏羽へと抜け替わる。羽のまだ整わない鳥をいう。飛翔能力が低下しない程度に羽が抜け、初列の風切が数枚伸びきったところで、次列の風切が外側から内側へ向かって換羽を始める。羽の抜けた鶏は威厳を失った姿を晒し、みすぼらしい。

 

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