少々変わった蝶の絵です。この蝶は、花ではなく葉っぱによっていきます。そして蜜ではなく、露を飲みます。本当は葉っぱを食べたいのですが、最近、なぜか食べられなくなったのです。
そう。この蝶は、自分が蝶になっていることに、まだ気づいていないのです。なぜなら、彼は、昔、小さな芋虫だったころ、自分のあまりの醜さに、すっかりいやになり、夜に逃げてしまったからです。
自分の姿を、誰にも見られたくなかったのです。自分は、こんなにも醜い、ばかみたいなものだと、ずっと思ってきて、昼に眠り、夜にだけ動いていたのです。夜なら、自分の姿を見なくて済むし、だれにも会わなくて済むからです。
だから彼は、自分がどんどん大きくなって、突然動けなくなったり、眠り込んでしまったりしたことを、病気か何かと思って、別に気にもしなかったのです。昼の世界に生きていたなら、彼はきっと、見違えるほど美しくなった自分に気づいたことでしょう。けれども、ずっと光から逃げていたがために、なんともおかしなことになってしまった。
彼は、昔のように葉っぱが食べられなくなったことに、不安を感じています。なんとなくいやなことになったのだと、考えています。まったく自分は、何をしてもだめになるんだと、考えているのです。そして、飢えをしのぐために、露を飲んでいるのですが、何かいつも物足りないと感じているのです。なぜなんだろう? なぜなんだろう? 何かが足りない。おれときたら、なんでこんなに、いつだって不幸せなんだ。
光の世界では、彼と同じ仲間が、美しい花々の上を飛び回って、甘い蜜に酔いしれて、生きることの楽しさを謳歌しているのです。彼はそのことを、まったく知らない。
とんでもないことになっていることに気づいた夜風が、彼にささやきます。
「なにをしているの? そんなところにいてはだめよ」
「おまえは、美しい蝶なのよ。なぜそこにいるの?」
でも彼は、自分がまったく醜い芋虫だと考えているので、振り向きもしません。夜風はため息をつきながら、もう一度言います。
「おまえは、飛べるのよ。美しいのよ。気づいて。気づいて。もうすっかり変わっているのよ」
けれども彼は耳を貸さない。自分の美しい翅が、闇に埋もれているのに全く気付かないまま、昔と変わらず、芋虫のように葉っぱの上を這い続けて、自分の運命が悲しい、つらい、苦しいと、ずっとうめき続けているのです。
このカードの意味は、「馬鹿者」です。