読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

最近読んだ本

2009年12月20日 | 読書

時代ものとサスペンスそしてドキュメント

  兼好法師はつれづれなるままにものを書いたが、最近とみにつれづれではない
 ものの寸暇を見つけて活字を追う。難しい本は頭が痛くなったり、遅々として頁
 が進まなくなったりするので、勢いエンターテーメント性の高いものを選ぶことになる。

  まず諸田玲子の「狐狸の恋(お鳥見女房)」時代物を書かせたら藤沢周
 平や池波正太郎に比肩するというくらい評価が高い。平成16年10月から小説新
 潮に連載していた作品で、一話づつ独立しているが主人公は幕府鷹匠に連な
 「お鳥見」役の女房。息子やその嫁、嫁いだ娘と娘婿、独り者の次男坊、夫と舅
 等々登場人物が多く、それぞれ何らかの事件を持ちこむので退屈しない。
 とにかく女性目線と感覚で実にうまく書けている。
 (2006年8月新潮社刊)

  「小説経済産業省」大下英治著(2006年9月徳間書店刊)
  経済産業省所管の主要な出来事とこれをめぐる経済産業省の幹部と異色官
 (の卵)を紹介している書き下ろしドキュメントノベル。面識のある人も何人かい
 るが、多面的な取材があってか意外な一面を知り認識を改めることになった。
 
   



  次いでThomas H. Cookの「石のささやき(原題:THE CLOUD OF
    UNKNOWING)」

  村松潔訳
  
この作家は「夜の記憶」である種の感銘を受けたが、今回の作品も統合失調症
 で死んだ父を持つ姉(弟は姉が殺したのではとの疑いも持っている。)と弟が主人
 公で、姉は驚異的な記憶力を誇りながら、父親の狂気の遺伝子を受け継いで
 いるのではという不安を抱えながら生きている(弟も時に自分もそうではないか
 と思ったりする。)。
  弟は、自閉症の息子を夫が死に追いやったとの思いに囚われ次第に狂気の世
 界に嵌まり込んでゆく姉の姿に父の最期を重ねて見る。人間や人生の重苦しい
 現実を淡々としかし鋭く衝いて書く希有な作家である。
 (2007年9月文春文庫)

  「ハートウッド(原題:HEART WOOD)」James Lee Burke著
  絶世の美女と見てくれは良く金持ちだが人間的にはどうしようもない傲岸不遜な
 その夫。その実業家とつるんで弱い者いじめに走る保安官とその取り巻き。昔そ
 の絶世の美女と一時愛し合ったが別れて都会で弁護士となって郷里に帰ってき
 た男。結末は勧善懲悪である。よくあるパターンであるが舞台がテキサス州南部。
 すでに奴隷解放から100年は経とうかというご時世にあって、なおこれほどまでに
 身にしみついた人種差別が根強いか驚く。黒人とヒスパニックに対して同じ人間
 とは見ていないのだ。同じ白人でも名のある富裕層と貧困層との間にも乗り越え
 がたい深い溝があり、両者とも運命的なものと受け止めているところが封建時
 代の日本を思わせる。アメリカ南部が舞台の小説は押し並べてこのパターンで、
 いつも驚かされる。

  

  「殺したのは私(原題:WE’LL MEET AGAIN )」 Mary Higgins Clark 著
   深町真理子/安原和見訳(2002年10月新潮文庫)
  「本当に私が殺したのだろうか…」圧倒的に不利な状況証拠の下で、夫殺しの
 罪に問われながら、肝心の殺人の瞬間の記憶がなくなる。たぐいまれな美貌の
 主人公を罪に陥れたのは…。意外な結末と犯人に読者唖然。

  佐々木譲著「夜にその名を呼べば」2008年5月早川書房刊)
  東西冷戦時代に「ココム規制」という対共産圏輸出規制システムがあった。軍事
 目的使用が可能な工作機械を巧妙な迂回作戦で東ベルリンに輸出した某機械
 商社。タイミングが悪く国家的問題になりかねない事態に、会社首脳部はダミー
 会社に派遣してしていた担当社員の抹殺を企てる。一人は目的を達するが、今
 一人は身の危険を察知し東ベルリンへ脱出する。妊娠中で日本に残っていた彼
 の妻は、執拗悪質な刑事などからの威迫に耐えきれず自殺する。
  それから10年。男は復讐に立ち上がる。暗殺実行者は次々に殺されるが、意
 外な真実が明かされる。
  「エトロフ発緊急電」にはロマンがあったが、この作品では終段になって意外性
 が強すぎてやや不満。

   

  (以上この項終わり)

コメント
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