読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

高杉 良の『明日はわが身』

2016年02月21日 | 読書

◇ 『明日はわが身』 著者: 高杉 良  1995年4月 徳間書店(徳間文庫)

   

  経済小説、企業小説、あるいはサラリーマン小説といったジャンルがある。企業の経営者や社員、業界・
 経済事件をテーマにした作品を書く作家は結構多い。城山三郎、清水一行、梶山季之最近でいえば真山
 仁、池井戸潤か。高杉良も銀行・証券を初め官庁、自動車、建設、製薬、化学等々フィクション・ノンフィク
 ションと多岐に渡る。
  この作品は、製薬会社のプロパー(外交員)の営業活動が主軸となり、併せて自らの急性肝炎による入
 院体験をリアルに語り、サラリーマンの悲哀を描く。

  主人公は29歳の小田切健吾。トーヨー製薬という東証一部上場の大会社の開発部門で働いていたが、
 同族経営的色彩が濃く、社長の甥が開発部長に就いてから彼の不興を買い、東京営業所のプロパー(セ
 ールス)に左遷される。病院、開業医、大学病院など顧客のご機嫌取りで、まるで奴隷並みにこき使われ
 る。しかし小田切はプロパーも大事な仕事と観念し、ひたすら仕事に励む。
  ひいきにしてくれていた常務もこの開発部長とそりが合わず、アメリカ子会社に飛ばされてしまう。小田
 切は仕事上のストレスから重度の胃潰瘍で吐血し、輸血を受けた結果急性肝炎を発症し長期にわたり
 入院する破目になり、ある日退職勧告を受ける。おかげで婚約にまでこぎつけた女性は去っていく。
  しかし急性肝炎もようやく回復に向かい、親切な看護師(文中では看護婦)に巡り合い、破談からも立ち
 直る。また、左遷された常務はアメリカの企業にスカウトされ、日本法人を設立することになって、小田切に
 スタッフとしての参加を求める。トーヨー製薬に見切りを付けた小田切は、一陽来福と再出発の夢を膨らま
 せる。
  作中、小田切に思いを寄せる美和子という病気(慢性腎炎)の亭主・子持ちのホステスがいて、思わせぶ
 りなシーンが何度かあるのだが、何のために登場させたのかよくわからない。

  ストーリーとしては平凡であるが、製薬業界の「プロパー」という独特の世界の詳細がわかり、左遷、病気、
 退職勧告といった出来事は、サリーマンにとってまさに「明日は我が身」であることを思い知らされ、サラリ
 ーマン小説としては楽しめる。
  高杉良の著作は1976年の『虚構の城』が第1作であるが、本書は1977年に書かれ、第2作である。  

                                                    (以上この項終わり)  

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