◇『愚者の連鎖』 著者:堂場 瞬 一 2016.3 文芸春秋社 刊(文春文庫)
アナザーフェースシリーズ第7弾。
警視庁刑事部の刑事総務課巡査部長大友鉄は、妻の菜緒を交通事故で亡くして、今は
一人息子の優斗と二人暮らし。その優斗も中学生になった。男同士で会話は弾まないが、
父親に肉豆腐を作ってくれる優しいところがある。
ある日後ろ盾になってくれている後山刑事部参事官から電話があった。南大田署で取
り調べ中の窃盗犯が10日も完全黙秘でお手上げ状態なので「ちょっと行って揺さぶって」
やってくださいと言う。刑事総務課は本部応援も仕事の内であるが、所轄の取り調べ応援
は珍しい。
連続窃盗犯と思しき容疑者若居はなかなかしぶとい。外堀を埋めることで突破口を作ろ
うと周辺捜査を開始する。川崎でつるんでいた高校時代からの半グレ仲間。そして女友達
を探り当てる。どうやら若居は彼女(田原麻衣)の父親の入院費用に充てるために盗みを
働いていたらしい。俵の存在を知られた若居は完黙を解く。
ところが驚いたことに事案担当検事の海老原がしつこく所轄に足を運び捜査の指揮を執
る。やや異常である。
今回のストーリーのポイントは、後山参事官が退官し政治の世界に入ること、担当検事
の悪事が絡んできたこと、中学・高校時 代からの悪ガキグループのヒエラルキーが、10年
も15年も守られるという愚者の連鎖が生んだ犯罪の始末記であろうか。
大友は今回の事件ではちょっと優しい気持ちを起こし、刑事の基本的心得を怠ったばか
りに、命を失いかねない攻撃を受けて容疑者を奪われた。そんな失態があったものの、誠
意ある取り調べで死体遺棄の余罪告白を引き出した。取調べのプロとして面目躍如たる場
面である。
なぜ愚者の連鎖が絶えないのか。人には生きて行くうえで常に居場所が必要である。そ
れがたとえ悪ガキグループであっても。
後ろ盾の後山参事官がいなくなっった。さて捜査一課に戻って刑事本来の仕事をさせて
もらえるのだろうか。
(以上この項終わり)