読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ローレンス・ブロックの『殺し屋ケラーの帰郷』

2019年03月26日 | 読書

◇ 『殺し屋ケラーの帰郷』(原題:HIT ME)
           著者:ローレンス・ブロック(LAWRENCE BLOCK)
           訳者:田口 俊樹   2014.9 二見書房 刊(二見文庫)

  

     殺しの請負業ケラーは殺し屋を引退し、今はルイジアナ州ニューオリンズで結婚、ジェニーと
いう女の子を設け、今やすっかり普通の市民生活に馴染んでいる。住宅リフォームを手掛け、一時は
順調にいっていたが、リーマンショック以降ばったりと注文は減ってしまった。そんなところに殺し
仲介担当だったドットから電話があった。また仕事が入ったが「やる?」と聞かれた。

<ケラーイン・ダラス>
 依頼人の住まいはテキサス州ダラス。おりしもケラーの趣味である切手のオークションがたまたま
そこで開かれるということもあってこれも何かの縁と、殺しを引き受ける。
 不倫の妻を殺し、相手も殺してくれればボーナスを払う。相手が女を殺したという形が作れたらボ
ーナスを二倍にするというおいしい話。仕事はうまくいった。運よくベッドで同衾中の二人を殺しボ
ーナスも手に入れられると意気揚々と引き上げたケラーにドットから電話が入る。「あなたは依頼人
を殺した。ボーナスも入らない」実は依頼人と妻は仲直りをしたので、依頼は取り消しと連絡があっ
た。それをあなたに電話する前にあなたは殺してしまった。同衾中の男は依頼人である夫だったのだ。
えらいチョンボである。

<ケラーの帰郷>
 ずいぶん前に住んでいたニューヨークがらみの殺しの仕事が入った。昔住んでいた住まいの様子を
見に行くと行きつけの料理店の主人が覚えていて驚く。油断がならない。今度のターゲットは大修道
院長だが家に侵入する手立てがなかなか見いだせない。結局高級ウィスキーに薬物を注入し贈り物と
して送り付けた。ジェニーにウサギのぬいぐるみを買って家に帰ると、ドットから請負仕事が成功し
たという電話があった。

<海辺のケラー 
 リフォームの仕事もほとんどなくなって、妻とカリブ海クルーズに出ることにしたとドットに告げ
と、仕事付きでどうだという。
 客船のターミナルに行くとドット派遣の男がいて、「俺は一旦は引き受けたが船が嫌いなので」タ
ーゲットがクルーズ無料招待券につられて現れるから「あんたがやってくれ」という。ただ護衛が二
人付いているという。やれやれ。どうやら富豪ではあるがある事件の証人で証人保護措置によって、
どこかに移住するらしい。ところがターゲットの老人は見事なバストの若いブロンド美人を伴って
乗船し、その女性はあろうことかケリーに流し目を…。殺しのあと相手のイメージを脳裏から消して
いくエクササイズのやり方も紹介されていたりして、私はこの掌編が一番気に入った。


<ケラーの副業>
  ケラーは趣味が高じ、殺しの本業に加えて切手売買の周旋を手掛けることに。3年ほど前に夫を亡
くした未亡人から切手蒐集家だった夫の切手アルバムを売りたいと申し出があった。見るとかなりの
逸品揃いである。25万ドルで買い取っても良いが、もっと高額で買う人がいるかもしれない。知り合
いのディラーに声をかけるので3者の入札で決めてはどうかと提案する。相次いで訪れたディーラー
はそれぞれかなりの目利きで、結局5倍近くの高値で売れた。未亡人は正直者のケラーに感謝し、手
数料のほかにケラーの娘のジェニーのために10万ドルの信託基金を贈るという。
 そんなことがあっても本業の殺しの仕事は待ってくれない。殺しのターゲットはある男。妻は
夫が
愛人を作って
いたことを知り愛想をつかし殺してほしいと依頼してきた。ところがケラーが仕事をす
る前にその愛人の愛人が嫉妬して男の家に放火し、男は焼死した。黙っていればケラーの仕事が完成
したことになるというドットの勧めで報酬をいただいたのであるが、念のために放火現場を確認に行
き、連絡に使った携帯電話機は破棄する。ケラーは几帳面なのである。

<ケラーの義務>
 ケラーの殺しのルールの一つ「子供はやらない」という一線に引っかかる依頼がきた。子供はやら
ないが、子供を殺したいなどという大人は殺してもいいだろう。どんな子供か、会ってみたら切手蒐
集が趣味で結構詳しい。すっかり気に入った。さて彼が相続する遺産を狙っている依頼人は叔父一人
と叔母二人のうちの
一人か二人か三人ともどもなのか。どう消すか手立てはじっくり考えよう。

ケラーはなかなか引退できそうもない。  

 ケラーの趣味の切手蒐集話が少々くどいきらいはあるが、ローレンス・ブロック独特の小気味良い
風刺を効かせた語り口が心地よい。殺しのシーンも極めて淡白で事実を淡々と述べるだけ。
(殺し屋ケリー最後の仕事)を書いたのにまた(ケラーの副業)まで書いたブロック、さて次作はあ
るのだろうか。
                                 (以上この項終わり)

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