読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

大沢在昌の『ライアー』を読む

2020年10月22日 | 読書

◇『ライアー

        著者:大沢在昌   2018.3 新潮社 刊(新潮文庫)   

  

 久々の在昌世界を堪能した。これぞノンストップサスペンスという
べき傑作である。ハードボイルドな女性工作員の活躍するアクション
場面が迫力がある。

 これは日本の権力の中枢にある人たちが、司法機構の埒外にあって
日本国に有害な人物を排除する組織を作っており、相似た二つの組織
同士が対立関係に立って戦い合う中で、アウトローの世界で生死と向
き合う工作員の苦悩とジレンマが交錯するエンターテイメントである。

 主人公神村奈々は41歳。表向きは「消費情報研究所」という警察
庁や公安などの司法機関が作った隠れ蓑団体の調査員である。国家有
害人物の特定は上位にある「委員会」が決めて、研究所に指示があっ
て、排除行為は国外で行われる。奈々の義父直祐はこの組織創設者の
一員である。

 そんな神村奈々の夫洋祐(統計学の大学教授)が中国人娼婦と思わ
れる女性と焼死体で発見された。なぜ女と死んだのか。娼婦と寝た洋
祐など想像もできない奈々はその真相を知りたいと警察の担当刑事駒
形を巻き込んで調査に動く。その結果「損害保険事業者連合会」とい
う得体のしれない団体に行き当たる。奈々に尾行が付き、かつ襲われ
る。どうやら奈々の所属する研究所と同種の組織らしい(ただしこち
らは処理は国内で行う)。
 尾行者の一人は奈々と争ううち誤って自分を撃ち死ぬ。

 洋祐が一緒にいた女は苗佳という中国系工作員であることが分かっ
た。奈々の上司副所長の大場と駒形刑事と3人で苗佳の住んでいた部
屋を調べていたところ、伊藤という殺し屋が現れ、大場は拳銃で撃た
れ死ぬ。

 このままでは両組織の対立で死人が増えるだけと、奈々と駒形は先
方の指揮官の南雲と会い不毛の争いを終わりにしようと話を付ける。
その際奈々は焼死事件のターゲットが夫の洋祐だったことを告げられ
愕然とする。しかもその指示を出したのが洋祐の父、奈々の義父だっ
たとは。

 この先急テンポで二つの非合法排除機関のせめぎ合いが続く。銃器
を駆使したアクション続きで何人も死ぬ。
 奈々は決死の覚悟で連合会のアジトに乗り込み、義父との直接対決
図る。
 妻の仕事が人を殺すことだと知ってしまった洋祐は、父親に奈々に
仕事を辞めさせてほしいと頼んだのに、近々二つの組織を統合する予
定もあり、優秀な奈々は組織維持のために欠かせない存在である。し
かし断れば洋祐は組織を世間に公表すると言った。組織優先を選択し
た直祐は実の息子を殺すしかなかったというのだ。

 自分が真実を知っていることは決して奈々に知られたくないとい言
った洋祐。亡くして初めて夫の深い愛を知った奈々は、真実を知りな
がら嘘で私を包み、私を守ろうとした洋祐への罪の意識から、義父に
惨い言葉を投げつけつつ、泣いた。
 直祐は奈々の同僚瀬戸恵子に撃たれ死ぬ。
 
 ライアーはその言葉通り「嘘つき」である。いろんな立場の人が必
要があっていろんな嘘をついている。
 奈々は決心する。洋祐は奈々が仕事を辞め、生き続けることを願っ
た。私の彼への愛は、それを一日でも長引かせることでしか証明でき
ない。ならば証明するまでだ。
                     (以上この項終わり)


コメント (2)
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