読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

柚月 裕子の『暴虎の牙』

2021年07月15日 | 読書

◇『暴虎の牙

 著者: 柚月 裕子  2020.3 KADOKAWA 刊

  

 極道と不良・暴走族など愚連隊といった反社会勢力同士の抗争を描いた長編。
『虎狼の血』シリーズ完結篇である。
 全編これやくざ者同士の抗争と警察暴対班の癒着体質のが綾なす劇画調ハー
ドボイルドロマンである。

 前半は広島県警広島北署の暴力団担当捜査二課の係長大上章吾とハングレ集
団呉寅会の頭沖虎彦を中心とした流れ、後半は呉原東署捜査二課の班長日岡秀
一の登場である(日岡は「虎狼の血シリーズ」に登場した大上の愛弟子である)。
 これだけ裏社会に詳しく、ハングレ同士の決闘場面、残酷なシーンをリアルに
描く女性作者はあまりいない。今回は結末が幾分緩い感じである。

 大上刑事はやくざ社会幹部と癒着し手柄も立てるので上司も独断専行も許して
いる。作中では広寅のメンバーを初め地取りの叔母さんやホステスらとのやり取
りの軽快さが楽しい。
 
 沖は平気で人間を食らう獣の牙を持っている。やくざと警察を憎む。ヤク中で
暴力親だった父親の記憶がそうさせているのである。沖は自分と母と妹に暴力の
限りを尽くした父親を殺し、松の根方に埋めている。誰も知らない。
 小学校時代からの仲間三島、重田が広寅会の中心幹部である。

 沖は暴力団の賭場荒らし、違法薬物取引の横取りその他の悪行を大上に暴かれ
て仲間共々20年の刑で刑務所に入れられた。「密告者は誰じゃ!」問い詰めるは
ずだった大上刑事は出獄する前に亡くなってしまった。
 沖は探し当てた大上の墓前でばったりと日岡刑事に遭う。 
 
 日岡はかつて上司だった大上のマル暴での身の処し方をなぞっている。暴力団
の幹部と兄弟の杯を交わし、いくつかの暴力団幹部と誼をかわしている。一般人
に危険を及ぼさないというのが行動規範である。素人衆を傷める輩は容赦しない。
そんな今どき極道でも珍しい几帳面さを持った刑事である。
 今回はさして華々しい活躍がない。
 
 沖の怒りは、人生の理不尽や不条理など自分の力ではどうにもならないものに
対するものに向けられている。
 沖が広島笹貫会に襲撃をかけるのを知った時、大上は「あのバカの命を助ける
ためにはこれしかない」と言って刑務所に放り込んだ。やくざ社会の執念深さを
知っているからである。
 出所してから密告者探しに執念を燃やす。留守中幹部の重田が沖の愛人真紀と
いい仲になって子供まで生していたことに激怒し、なぶり殺しに惨殺する。
(実は子供は沖の子だったりしたら面白い展開になったと思うのだが)
  
 沖らは暴力団烈心会のカジノ賭場荒らしと麻薬現物窃盗で巨額の活動資金を得
た。幹部連中は有頂天であるがグループ創設来の幹部三島は沈んでいる。

 幼なじみの重田を密告者だと決めつけて容赦なく殺した沖を許そうとしない。
数多の暴力団と警察を敵に回して広島の極道の頂点に立つという沖の野望を真っ
向から否定し「もうお前にはついていけん」という。二人は対決する。

    エピローグに書かれた沖の最期が最悪である。救いがない。
                          (以上この項終わり)

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