◇『リーマンの牢獄』
著者:斎藤 栄功 2024.5 講談社 刊
この本は20世紀最大の世界的金融危機の引き金となったアメリカの投資
銀行リーマン・ブラザースの破綻の遠因になった同社日本法人に対する債
務償還不能とした本人が著わした自叙伝である 。アバターとの対話形式を
とったのは監修役の阿部重夫氏の提案であり、功を奏している。
1980年代。バブル景気のあげく長く低迷した日本のマクロ経済の底辺、
個々の魑魅魍魎のごとき面々が跋扈する経済活動のリアルな姿が彼の職歴
を通じて赤裸々に描かれる。
大学卒業後著者斎藤が就職したのが、間もなく自主廃業に追い込まれた
「山一證券」。
職を奪われた彼は都民信組を経て外資系証券会社メリルリンチに入った。
メリルリンチではBFSというスワップ取引やオプションなどデリバティ
ブ(金融派生商品)を組み込み、客のニーズに合わせたキャッシュフロ
ーを生み出す<仕組み債>を組成するのが仕事だった。会計士、弁護士
など3.4人でチームを組んで、金融法人、学校法人、宗教法人、医療法人、
各種財団などに的を絞り顧客を開拓した。斎藤は副部長級で基本給1,500
万円、ボーナス8,500万円一躍合計1億円の高額所得者になった。
高給に浮かれ、高級車購入、愛人に高級マンションを買い与え、銀座
で豪遊など贅を尽くしたあげく在職平均3,4年というメリルリンチを辞め、
かねて興味があった医療業界向けの債権証券化スキームを実現すべく医
療コンサル会社<アスクレピオス>を創設する。
みずほ銀行の出資、丸紅の資本参加という信用力を背景に 業績は伸び
た。しかし、丸紅の印章偽造疑惑問題等があって、国税調査が入り、東
証の処分を受け自己破産、投資ファンドも手掛けていたアスクレビオス
はゴールドマンンやリーマンなどマンモス銀行をもまんまと詐欺芝居の
エサにした金融詐欺を働いたことになり逮捕・起訴された。
怪しげな雰囲気が漂ったのか金融市場はメルトダウン。
15年の刑を宣告された斎藤はしかし控訴せず刑に服した。暖房のない
長野刑務所の冬はつらい。ひたすら読書に耽り、揚句は慶應義塾大学の
通信教育で経済学の勉強もした。刑務所の日常が淡々と語られるが、受
刑者同士や看守からのいじめ・嫌がらせ、制裁の種づくり、些細な規則
違反に大仰な制裁、等々人格否定の数々が明かされる。
なぜ控訴しなかったのか。受刑することで一度人生をリセットし、新
しい自分を見つけ直したかったのだ。だがそれも幻だったかもしれない。
(以上この項終わり)
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