読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

立野正樹の『百年の旅』

2019年03月10日 | 読書

◇ 『百年の旅』 著者:立野 正樹 
 

           2018.11 彩流社 刊




  この著作は立野正樹氏の文芸評論である。
 氏はこれまでもにいくつかの作品に関し、その舞台となった地を旅し、直接作品の背景
となった歴史的風物などに触れることによって、作者の真に意図するところを肌でくみ取
ろうとする姿勢をとって来たように思う。
 著者は、第一次世界大戦と第二次世界大戦の
狭間の20年間の小説は、多かれ少なかれ戦争の「回想」であり、経験知と喪失感が分かち
がたく結びついたまま反映させられている。とする(本文19p)。
 
この度の『百年の旅』は、主として『武器よさらば』の舞台となったスイスとイタリア
の旅を通じて、「作品外の現実」ないし伝記的事実としてのイタリア戦線を巡り、作者が
考察した戦争の幻滅感と、戦場での恋愛という二つの経験的要素も視野に置いて著した評
論である。
 著者は現在の激戦地の風景を見ながら作者が経験し描いた光景を脳裏に描き、幻影を見
る(p71pなど)。

 第一部は ヘミングウェイについては「カポレットからの退却」の舞台イゾンツォ川を。
 第二部は ラドヤード・キプリングの息子ジョン・キプリングの戦死した(と信じられ
      ている)北フランスの「フランドル」を。
 第三部は カロッサの『ルーマニア日記』、『処刑の森』を取り上げ、作品の舞台とな
      ったギメシュ渓谷を訪れた。

 振り返れば、ピエール・ルメートルの『天国でまた会おう』も、第一次世界大戦後、第
二次世界大戦との狭間が単に「長い週末」(E・S・フォスター)にあって、当時のヨーロ
ッパを覆った失望と不安感を題材に取り上げた作品といえるだろう。戦闘で重度の負傷を
追った兵士の生き様をドラマチックに描くことによって、戦死した兵士を英雄としてもて
はやしながら、生きて帰った復員兵には冷たい戦後のフランス社会に対し痛烈な一矢を報
いた作品なのである。作者ルメートルは第二次大戦後の生まれであり、戦闘場面は多分想
像力の産物ではあろうが、戦争への幻滅感に共通性がある。
                               (以上この項終わり)



 
 

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斜里岳とロッヂ「風景画」を描く

2019年03月08日 | 水彩画

ロッヂ「風景画」と斜里


  
   clester F8 

       北海道のオホーツクの流氷を見ようと出かけ、結氷した摩周湖や丹頂鶴なども観光しましたが、その
  旅で宿泊したロッヂ「風景画」(清里町)で日本百名山の一つ「斜里岳」の雄姿を満喫しました。
  ロッヂの食堂(2階にある)から見る斜里岳の風景がまるで額装した絵のようだということで宿の名前
  を「風景画」と命名したという宿の主人。確かに斜里岳や遠く知床の山並みもうかがえるロケーション
  は感動的でした。
   当日は良い天気で空気は春霞のようで太陽が付きのようにかすんでいました。そのため斜里岳は薄青
  くかすんでいます。
   雪景色はほとんど描く機会がなく、雪の質感を表現するのに苦労します。白樺の木々は雪の中では特
  徴である白い樹肌が飛んでしまってわずかにロッヂの壁の色だけではコントラストが弱くなります。
   動きが欲しいのでカップルを入れてみました。ただ殆ど陽光がないために影がありません。


    
            vifArt   F0
  これは居室の窓からのスケッチです。朝になって窓の外を見るとキタキツネの足跡がありました。

                                     (以上この項終わり)


 

 

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志賀晃の『スマホを落としただけなのに』を読んだ

2019年03月04日 | 読書

◇『スマホを落としただけなのに

   著者:志賀 晃    2018.9 宝島社 刊(宝島文庫)

  

 第15回『このミステリーがすごい』大賞候補作となって映画化され、コミックも出た。評判の作品である。
タクシーに置き忘れたスマホが、とんでもない災難を引き起こす。ネット社会の危うい裏面をサスペンスフル
なミステリーに仕上げた作者はなかなかのものである。クラッキングなど専門的な手口も語り口が平明なので
その怖さが直接身近に迫ってくる感じで、一気読みした。

 ある男が誰かがタクシーに忘れたスマホを拾った。待ち受け画面には自分好みの黒髪の美人が写っていた。
そこから悪夢のような物語が展開する。全体の組み立てとしてはこのスマホを拾った「男」、ターゲットと
なった黒髪の美人稲葉麻美、若い女性の連続殺人事件の捜査の三本の線が巧みにた語り継がれていく。が、
主軸はなりすましの「男」と「麻美」の攻防である。

 犯人捜しはそれほどむつかしくはない。途中で「あ、こいつね」といった程度ではあるが、なんといって
も「男」がスマホに充満する個人情報、スマホ・フェースブックの交流関係をたどって現在・過去の人間関
係を暴き出していくプロセスがすごい。作者がクラッキングのプロではないかと疑いたくなるほどだ。5件
にのぼるシリアル殺人そのものやこれに対する警察の対応には首を傾げたくなる点が多々あるが、フェース
ブック・スマホでのなりすましによる犯罪への警鐘に軍配が上がる。

 なりすましのシリアルキラー「男」、美人だが超訳アリだった「稲葉麻美」、ドジではあるが最後まで
「あさみん」への愛を守った「富田」。最後にサスペンスも用意してあって出来のいいミステリーである。

 続編が出た。『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(2018.11宝島文庫)
                                      (以上この項終わり)


  

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