リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

2005年08月21日 19時48分11秒 | 音楽系
リュートをやっていて何が大変かって,それはもうやはり調弦でしょう。昔からのリュートジョークに,80年生きたリュート奏者は60年は調弦をやっている,というのがあるくらいいつも調弦ばかりやっていたわけです。もっとも当時はガット弦なので,本当にそのくらいの頻度で調弦をしていたのは想像に難くないです。
昔の宮廷リュート奏者は,あまり高温多湿でないヨーロッパの気候で,なおかつあまり温度差のない部屋で演奏してたわけで,その条件をもってしても「80年生きたリュート奏者は・・・」です。そうは言われていてもそれは実用域ではあったはずです。現にリュート奏者としてちゃんと仕事をしていた人たちがいたわけですから。

現代のリュート奏者は条件的にはもっと厳しいところで演奏するのが普通です。普段のエアコンがたっぷり効いた部屋を出て,暑い道のりを車で演奏会場に。(日本の夏の場合(笑))演奏会場は若干エアコンの調子が悪かったりします。でもって,本番前に少し雨が降って,湿気をたっぷり含んだお客さんがどっと入って来て会場の湿度が一変。さらにステージのライトがちょっときつめで・・・

現代の電気楽器ならなんでもない条件でしょうけど,古楽器には堪える条件が一杯です。そういう「過酷」な環境では,ガット弦は論外と言えます。ま,個人で自分の部屋の中でひっそりと使っている分にはいいんですが。事実音そのものは合成樹脂弦よりいいのです。ただ,その差は少し離れたところで聴いたら多分聞き分けるのは難しいというレベルではあります。コンサート会場レベルではガット弦との差は無視してもいいくらい,合成樹脂弦の性能はよくなっていると言っていいと思います。音に関してもまずまずの性能だし,対湿度温度ではずっと優れている合成樹脂弦を使うのは当然の選択といっていいと思います。もっとも合成樹脂弦であっても調弦そのものは決して楽ではないんですが(そりゃそうですよね,バロックリュートなら24本も弦があるんですから),充分実用域にあるということです。

現代のリュート奏者で極く一部を除き,コンサートでガット弦を使用している人はいないという事実がそのことを物語っています。(日本より条件がずっといいヨーロッパですらそうです)