拙訳「とりどりのリュート曲撰」29ページの註を書き忘れというか、ミスがありました。このことは少し前の当ブログに掲載しました。註自体は書いてあったのですが、イラレの設定が悪かったので註が隠れてしまったのです。
最近またもや見つかったのは、註そのものを付けてなかったことです。
曲はファンタジーの部第7曲目(ジョン・ダウランドの有名なファンタジーです)。拙訳本P.44、下から4段目の真ん中の小節、4拍目です。ここにはバスが必要です。前後の流れからして5コース2フレットのレ(タブの記号だとc)でしょう。ここに註1)を付け加えたいと思います。(ご購入された方には後日もう少し落ち着いてから差分のPDFを送付させて頂きます)
ところで、先日の今村講習会でこの曲で受講したギターの高校生2人はこの部分のバスをラ(ギターではファ♯)、次の小節のバスをシ(同ソ♯)で弾いていました。調べてみますと彼らは現代ギター社版を使っていて、それは彼らが弾いたとおりバスはラ-シでした。現代ギター社版はダイアナ・ポールトンのダウランド全集を底本としているようです。
このファンタジーは当時からも有名で沢山ソースがあります。全ては手持ちではないですが、いくつか調べてみました。持っているソースは、1)テサウルス・アルモニクス、2)Eg. 2046、3)The Euing Lute Book。
このうち1)と2)はポールトンの全集と同じ、つまり現代ギター社版と同じ動きです。3)は私が註を付ける予定のレ(ギターではシ)、もちろん次のバスはVARIETIE OF LUTE-lessons版と同じミ(同ド♯)です。
ポールトンの全集には、1. A Fantasie、1a. A Fantasieが上げられており、1. Add. 31395(大英図書館)が底本のようです。「のようです」と書いたのはポールトン全集のTextual Notesでは書き方が少し曖昧だからです。1aはVARIETIE OF LUTE-lessonsが底本です。
このTextual Notesには、件のバスに関する議論は全くありません。それどころか63小節目のバスはシ(ソ♯)に変更されています。VARIETIE OF LUTE-lessonsではしっかりとミ(ド♯)になっているにも関わらずです。一応原典ソース(VARIETIE OF LUTE-lessons)ではミであるという註はついていますが。
これはおかしな書き方です。確かに1)2)のソースでは62-63小節のバスがソ、ソ、ラ、/シですが、ポールトンの1aはVARIETIE OF LUTE-lessonsがソースのはずです。ちゃんとTextual Notesにそう書いてあります。ですからVARIETIE OF LUTE-lessonsでは抜けているレを加えて、63小節目冒頭のバスを変えてはいけません。3)のThe Euing Lute Bookにはちゃんと「レを追加、ミは変えない」版が書いてあります。
そもそもポールトン全集(私は初版1974を持っています)は出版された当時から、学術的にきちんと整理されていなかったり、恣意的に変更してしまったところがあったりで、あまり評判はよろしくありませんでした。
現代ギター社もどうせギター版の全集を出すのでしたら、ポールトン全集を底本にするのではなくオリジナルソースをきちんと研究したものを出せばよかったのにねぇ。まぁひとつの資料として参考にするくらいだったよかったでしょうけど。弾くことしか知らない高校生ギタリストが、現代ギター社版なら大丈夫だと思ってしまいます。私が若い頃(ギターを弾いていた頃)はその手のことに関してはすごくウルサかったし、盟友のギタリスト酒井康雄氏もとてもいろんなことをご存じでした。もっとも高校生の頃はまだそれほど知っていませんでしたので、彼らはまだ高校生、これから充分な知識を身につけて音楽解釈に生かしてほしいです。あと現代ギター社さんには出版社の矜持を忘れてもらいたくないです。
最近またもや見つかったのは、註そのものを付けてなかったことです。
曲はファンタジーの部第7曲目(ジョン・ダウランドの有名なファンタジーです)。拙訳本P.44、下から4段目の真ん中の小節、4拍目です。ここにはバスが必要です。前後の流れからして5コース2フレットのレ(タブの記号だとc)でしょう。ここに註1)を付け加えたいと思います。(ご購入された方には後日もう少し落ち着いてから差分のPDFを送付させて頂きます)
ところで、先日の今村講習会でこの曲で受講したギターの高校生2人はこの部分のバスをラ(ギターではファ♯)、次の小節のバスをシ(同ソ♯)で弾いていました。調べてみますと彼らは現代ギター社版を使っていて、それは彼らが弾いたとおりバスはラ-シでした。現代ギター社版はダイアナ・ポールトンのダウランド全集を底本としているようです。
このファンタジーは当時からも有名で沢山ソースがあります。全ては手持ちではないですが、いくつか調べてみました。持っているソースは、1)テサウルス・アルモニクス、2)Eg. 2046、3)The Euing Lute Book。
このうち1)と2)はポールトンの全集と同じ、つまり現代ギター社版と同じ動きです。3)は私が註を付ける予定のレ(ギターではシ)、もちろん次のバスはVARIETIE OF LUTE-lessons版と同じミ(同ド♯)です。
ポールトンの全集には、1. A Fantasie、1a. A Fantasieが上げられており、1. Add. 31395(大英図書館)が底本のようです。「のようです」と書いたのはポールトン全集のTextual Notesでは書き方が少し曖昧だからです。1aはVARIETIE OF LUTE-lessonsが底本です。
このTextual Notesには、件のバスに関する議論は全くありません。それどころか63小節目のバスはシ(ソ♯)に変更されています。VARIETIE OF LUTE-lessonsではしっかりとミ(ド♯)になっているにも関わらずです。一応原典ソース(VARIETIE OF LUTE-lessons)ではミであるという註はついていますが。
これはおかしな書き方です。確かに1)2)のソースでは62-63小節のバスがソ、ソ、ラ、/シですが、ポールトンの1aはVARIETIE OF LUTE-lessonsがソースのはずです。ちゃんとTextual Notesにそう書いてあります。ですからVARIETIE OF LUTE-lessonsでは抜けているレを加えて、63小節目冒頭のバスを変えてはいけません。3)のThe Euing Lute Bookにはちゃんと「レを追加、ミは変えない」版が書いてあります。
そもそもポールトン全集(私は初版1974を持っています)は出版された当時から、学術的にきちんと整理されていなかったり、恣意的に変更してしまったところがあったりで、あまり評判はよろしくありませんでした。
現代ギター社もどうせギター版の全集を出すのでしたら、ポールトン全集を底本にするのではなくオリジナルソースをきちんと研究したものを出せばよかったのにねぇ。まぁひとつの資料として参考にするくらいだったよかったでしょうけど。弾くことしか知らない高校生ギタリストが、現代ギター社版なら大丈夫だと思ってしまいます。私が若い頃(ギターを弾いていた頃)はその手のことに関してはすごくウルサかったし、盟友のギタリスト酒井康雄氏もとてもいろんなことをご存じでした。もっとも高校生の頃はまだそれほど知っていませんでしたので、彼らはまだ高校生、これから充分な知識を身につけて音楽解釈に生かしてほしいです。あと現代ギター社さんには出版社の矜持を忘れてもらいたくないです。
そうですね、同感です。
編集の方針とか、出版のポリシーとか、中身の吟味を適切な専門家(演奏家)に依頼してでも正しい楽譜にするということは、大切なことです。
情操教育の一貫で始めた子供、学生、高齢者などは、老舗大手の出版社のものだからと、詳細な検分もなくその通りに弾いてしまうのも無理からぬことです。
リュートにせよ、ギター版にせよ、やはり研鑽中は正しく習うことが肝要だと痛感しますね。見識ある奏者であれば、使用楽譜から楽器に至るまで適切なアドバイスを教授するはずです。
ギター教室を例にとっても、Webオンライン、町場の個人教室から、カルチャーセンターの教室、プロが自宅スタジオで人数限定でワンレッスンするものまでピンキリです。そのレッスン料も数千円から数万までもあります。
アマチュアでいいという人、プロ志望の人でも音楽への向き合い方も相当な差異があるものだと思います。
個人的には、エレキは別にしても、特にリュートは本当にプロ演奏家に習うことが必要だなあと思いましたし、所有楽器選定にしても、ファクシミリの選定にしても、教授内容に関しても、初心から師匠に出会って本当に良かったと感謝しています。
件の高校生もまだ若さと時間もありますから、これから適切な知識、経験を得て音楽解釈に活かしながら演奏をしていただきたいです。若い人の活躍を大いに期待したいですね。
ポールトン全集の1aに関しては、原典がはっきりとVARIETIE OF LUTE-lessonsと言っていますので、同全集の処理は間違っています。
もっとも現代ギター社版でも件のバス以外はVARIETIE OF LUTE-lessonsに準じていますので厳密にいえばよろしくありませんが、まぁギター版を作るということですので、VARIETIE OF LUTE-lessonsに完全に準拠している必要はないでしょう。
とはいえ今村講習会を受講した高校生は近い将来有能な奏者として世に出てきますので、プロとしてはこの原典の差異は理解している必要があります。
この高校生には私の方から話ができるのでいいですが、他の若い方が現代ギター社版を使った場合、事情が分からないまま楽譜を使ってしまうでしょうから、やはり現代ギター社版にはきちんとしてもらわないといけません。
この曲は普通のアマチュアでは弾けないでしょうから(つまりプロが使う楽譜でしょうから)余計にしっかりしたものを出さないといけません。出版社の矜持とエントリーで言ったのはこういう点を踏まえてのことです。