大昔私にとって初めてのリュートが完成したというので製作家野上三郎氏のスタジオを訪れました。氏は完成した楽器を手に取り、まず始めにリュートを調弦するときの注意事項を教えてくれました。楽器を演奏するときのようにかかえたまま調弦するのではなく、自分の前に楽器を置き右手と左手でペグを回しなさい。そのとき顔を近づけすぎると、弦が切れたりペグが抜けたりしたときに弦が目に当たるので注意しなさい、というような内容でした。
今聞くと笑い話のような内容ですが、もちろん調弦するときは演奏するときと同じように楽器を構えて左手でペグを回します。
注意することは演奏しているときとは異なり右手はより斜めにして楽器を自分の方と右膝上に軽く押さえ気味にすることです。前回のフェルメールの絵のような感じになります。
バロック・リュートの弾き方は、右手アームを下の絵のようにしていました。
これが調弦するときには右アームがフェルメールの絵のような角度になるわけです。
さらに重要なことはペグを回すときはペグボックスに押し込み気味にすることです。これをやらないと数回も回さないうちにペグはポロッと抜けてしまいます。ペグの棒は円錐状になっていて先の方が少し細いです。これは突っ込みながら回すことによって抜けないようにする工夫です。ペグを円柱状にしたらうまくしまりません。酒樽などの栓も同じ仕組みです。
前の記事ではやはり奏者を待っていたということでしたのですねえ。びっくりしました。
さて懐かしい製作家のお名前を目にしました。野上氏といえば、全国的に有名な某ギター音楽院のクラシックギターの雑誌でもよく目にしたものです。
日本では、本当に限られた数人程度しかリュート製作家はいませんでした。
欧州の本場もんは手に入れるのも難しい時代だったのでないでしょうか。
あのシェファー氏が持参した名器が、日本に黒船来たるかのような驚きと感動がありましたからね。ニコ、ゲーストを愛用するプロ、愛好家をその後、多く目にしてきましたから。
それはともかく、このペグは厄介です。
専用の粉末を時たま塗りこんで調整してますが、押し込みながらやるのも最初は苦労したものです。
リュートは手間もかかりますが、私はそのアナログな愚直なものが好きです。24本もの弦交換、表面板、裏板を隅々まで点検する時間、掃除する時間、微細なクラックが入ってないか虫メガネで点検していく時間などなど・・・・、そんな時間も楽しみの1つです。
そして一通り、点検調整が終わり、バッハの997のプレリュードを弾いた時の、あの荘厳で幽玄なハ短調の深い響きが出てくる音の流れが堪りません。
そして練習後に飲む、ひと時の豆から挽いたコーヒーを飲む時間、いやあ、毎年そうですが、秋が深まっていく書斎から見える山々を眺めながら過ごすリュートのある時間は、エレキとは比較にもならないほど貴重な時間になります。
ペグの調子が良いと心も晴れ晴れとする感じがして、練習にも集中できます。楽器も健康が一番ですね。
現在は、様々な貴重な調査、見分、研究もできる時代の恩恵で、すばらしい楽器が欧州のプロ奏者等の意欲的な所有で、随分と選べる楽器が増えたなあと感じます。
ちょっと前までは、私個人はニコの楽器が一番と思ってましたが、敬愛するバルト氏の楽器いいなあ、欲しい、と思ったものです。
でも、あの楽器はウェイティング長いんだろうなあと。。。。
人気製作家さんのものを手に入れるのは、なかなか大変ですよね。ユーロも高いですし。マイケルロウ氏のものは、はるか先、人生を使い果たすくらいでしょうか、、。
まあ、現在のものを愛用していくつもりではあります。
浮気せずに練習あるのみです。
バロック・リュートを複数所有するのは弦の管理が大変ですから一台にした方がいいです。一台売って一台買うとか。