リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ビーフ・ガット弦

2012年08月04日 12時59分15秒 | 音楽系
昨年アメリカのガムート社が発売したビーフガット弦ですが、バロックリュートの1コース用に0.42mmを張っています。今日で13日目ですがまだ大丈夫です。途中で10フレット、4フレットの位置に傷がついてきましたが、そこからケバは出ていません。音は少しへたりがあるかな、という程度で、まだまだ充分使えます。

2コースの0.46mmを張ったときは、そういった目立った傷はなく、(もちろん各フレットの位置にへこみはありますが、これは合成樹脂弦でもできるものです)1ヶ月以上使えました。さて、この1コースが4フレットか10フレットのあたりでそのうちプツンと切れるのか、そのまま音にへたりが出てくるまで切れないかはみものです。

ヴァイスより少し年少のエルンスト・ゴットリープ・バロンは著書で、「(リュートの1コースがgからfになったので)ローマの弦が4週間ももったというような実例もしばしば伝え聞くようになった」(リュートなる楽器の歴史的理論的および実践的研究(1727)、日本語版「リュート - 神々の楽器 - 歴史と実践の研究」菊池賞訳)と書いていますが、いまより繊維の質がずっとよかったであろう当時でも1コースは4週間もてば表彰モノだったわけです。

私が1コースに張っている弦はシープではなくビーフですが、同社はビーフガットの特徴を、(シープと比べて)少し固い、音が明るい、ケバが出にくい、音程の安定が早い、環境による音程の変化が少ない、などと言っています。いいことずくめです。ただ0.38と0.40のビーフを数本ずつ(ヴァーニッシュ弦も)試した結果は、すぐにケバが出てきて実用にはなりませんでした。0.42mmは2週間近くたった現在でも使用できていますので、実用にたるものと判断しています。

以前佐藤豊彦氏がCDの解説に、最初のガット弦を使った楽器での録音セッションでは最高一日6本弦を交換したのが今回の録音では全セッションを通じて4本で済んだ、旨書いてらっしゃいましたが、(確か10年ちょっと前の話です)現在のガムート社のビーフガット弦はやっと実用域達したという感じです。昨年発売された弦なのでこのことはもうよくご存じのかたも多いかも知れませんが・・・(笑)

ただバス弦に関してはまだいいものがないというのが私の感想です。リュートは古楽器の弦楽器の中で唯一多くの演奏家が合成樹脂弦を使用している(使用せざるを得ない)楽器ですが、今後はガット弦を使う人が増えてくるのではと思います。また、他の弦楽器の人にとってもよりよい音で長持ちするトレブル用のガット弦はより多くの人に使われていくものと思います。

あとついでにナイルガット弦との比較を少々。ナイルガットも少し組成を変えた新しいものはいままでの合成樹脂弦の中では一番いいと思います。でも1コース用0.42mmのナイルガット弦と比べてみましたが、音量音質安定性などほとんどの点においてガムートビーフガット弦の方が上です。訓練された人でやっとわかる差ではなく誰でもすぐに分かるというレベルの差があります。ヒストリカル云々という視点からではなく、ナイロン、カーボン、ナイルガット、ニューナイルガットに続く「新素材」と捉えてみてもいいかも知れません。

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