リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バス弦戦国時代(4)

2024年05月11日 14時00分04秒 | 音楽系

ガット信者の方々はもう一種の信仰みたいになっていて思考ストップになっているので別の選択をするのがなかなか困難になっている状況のようです。そういう風な人たちを作ってしまった某演奏家の負の功績は大きいと思います。

このシリーズの(1)の4.で紹介したリンドベルイも昔のオリジナル楽器を修復した楽器での初アルバムでは、バス弦にはガムート社のギンプ弦を使っていたようです。しかし彼はその弦には満足できずに続く何枚目からのアルバムで紹介したような処理をしたバス弦を使っています。

あるいはアントニー・ベイルズがミッモ・ペルーッフォにローデドガット弦を特別に作ってもらったというのも彼は市販の弦では満足できなかったということでしょう。

演奏家活動の最初からガット弦を使っている(本人談)というポール・バイヤーも11コースバロックのバス弦はプレーンガット弦を使うものの、順番に弦長が長くなるオランダ式の楽器を使って成功しています。これもガット系バス弦を同じ弦長で低いレンジまで使ったときの音に満足していない証拠だと言えます。

少し張力が強めの金属巻き弦のバス弦を使っていたナイジェル・ノースは調弦に手間がかかるガット弦には移行せず、カーボン弦、そして今はCD弦を使っているようです。


プレゼン

2024年05月10日 16時51分27秒 | 音楽系

バロック音楽の旅シリーズは桑名市民が企画する「くわな市民大学」の一講座として開催されています。講座にしてもらうにはプレゼンをして審査を通らなければなりません。

その審査会でプレゼンをしてきました。もうこれで17回目になるので「無審査」にしてもらえるとありがたいのですが。

プレゼンをする方の待合室です。今年の応募は例年より少なめで5組だけでした。この写真の部屋の右側の部屋でプレゼンが行われます。プレゼンは5分、質疑応答が5分になっています。私の場合は5分できちんと終わるようにスマホのストップウォッチを見ながらプレゼンをすることにしています。

ことしも4分59秒で「・・・・以上でございます」の「す」を言いました。(笑)特に粗相はしていないので多分通してもらえると思いますが(もうアーチストとしっかり交渉していますので通してもらわないと困りますが)結果発表は1週間くらい後です。なんかものものしいですが、行政がやることなのである程度は仕方がありません。

 


バス弦戦国時代(3)

2024年05月09日 09時03分26秒 | 音楽系

20年何年か前までは多くの演奏家は1.の金属巻き線を使っていたと記憶しています。それがここ10年くらい前から多様化が始まりました。バス弦に関してこれだけ多様な選択肢が現在までに出て来ている流れを見ていきましょう。

バロック・リュートのバス弦に金属巻き弦を使うことは古楽の黎明期から続いていましたが、それを疑問視する人が徐々に増えてきたということです。その分岐点はいつ頃かは定かではありませんが、かなりはっきりしてきたのは今から10何年か前のことだろうという感じがします。そこでやはり昔のガット弦にすべきではと考える人が出て来ました。

この昔のガット弦にすべきだという考えは決して間違ってはいませんが、ただ大きな落とし穴があります。それは例えばヴァイスが使っていただろうレベルの弦が現在まだ開発されていないという事実があるからです。つまり現在売られているバスレンジ用のガット弦はヴァイス時代に使われていた弦とは恐らくレベチなのです。

という事実はプロの演奏家ならすぐわかることですが、アマチュアの場合は某著名演奏家がナントカ社のナントカというガット弦ならオーセンティックだと言えばそれに従ってしまう、というのは無理なからぬことでしょう。

某著名演奏家は別に自分の選択でやっているのでお好きなようにやればいいでしょうけど、かわいそうなのはそのことを信じ込んでずっとうまく鳴らないガット系バス弦を使っているアマチュアの人たち(=ガット信者)です。


バス弦戦国時代(2)

2024年05月08日 19時04分45秒 | 音楽系

5.古いへたったピラミッド弦
パスカル・モンテイイェが彼のバッハアルバムで使用していたという弦。agingさせるわけですが、自然にagingさせるのは結構時間がかかります。時短agingが4.のリンドベルイがやっていた方法なのかも。

6.ガムート社のピストイ弦
ガット弦をガムート社独自の方法でより合わせて作ったバス用の弦です。ピストイという歴史的に存在したバス弦の名称を使っていますが、「昔のピストイ弦みたいな感じ」という意味合いでヒストリカルな製法によるものではありません。

7.ローデドガット弦
アントニー・ベイルズが370Hzのピッチで録音したアルバムで使っている弦がこのローデドガットです。彼が録音に使った弦はアキラのミッモ・ペルーフォに作ってもらった特注品で一般に販売されているものではありません。かつてアキラはローデドガット弦を出していましたが、製品が安定せず製造を止めてしまいました。現在擦弦楽器用に限定した限られたゲージのローデドガットが販売されています。

8.アキラ社のヴェニス弦
これもガムート社のピストイ弦と同様、「昔ヴェニスから出荷されていたバス用の弦」をヒストリカルに製造した弦ではありません。この弦もガット弦をより合わせてロープ状にしたものですが、アキラ社では擦弦楽器用として出しています。アキラ社がリュートバス弦用としては出していない以上、バス弦として使うのは得策ではありません。

9.キュルシュナー社のルクスライン
金属をガットの中に埋め込んだ弦。見た目の表面は比較的平滑ですが、オープン・ワウンド弦と同じ機能を持つとメーカーでは言っています。でも実際の表面はかなりでこぼこしています。あくまでも「比較的」平滑ということです。

10.ガムート社のギンプ弦
キュルシュナーのルクスラインとよく似た構造の弦です。こちらの弦の表面はほぼ平滑です。

11.HF弦
3日前のエントリーで紹介した弦です。実際に見たことがないので具体的にはよくわかりません。後発ですので出す方も自信があるのかも知れません。


バス弦戦国時代(1)

2024年05月07日 09時46分47秒 | 音楽系

先日のエントリーで新しいバス弦の選択肢になるかもしれないHF弦のことについて書きましたが、いまだバロック・リュートやテオルボのバス弦の選択については定番がなく、むしろ新しい選択肢が増えていわば戦国時代の様相を呈しているとさえ言えます。

ここで今現在どのようなものがあるのかまとめてみましょう。

1.昔ながらの(昔は1970年頃を指します)金属巻き弦
金属は真鍮、銅、アルミがあります。真鍮や銅は銀メッキを施したものもあります。

2.フロロ・カーボン
10年くらい前からバス弦に使われるようになってきた素材で、クレハの釣り糸をそのまま使うことができます。クレハの釣り糸(万鮪)はなぜかリュートの低音弦で使えるくらい細かな単位のゲージがあります。ただしそのまま使うと精度不足で振動がよろしくないものがほとんです。実際に使うにはサヴァレスのKF弦を買った方が実際的です。

3.アキラのCD弦
6,7年前に登場したリュートのバス弦専用をうたった弦。ただし登場時は太いバス弦なのに切れまくりました。その後改良品が出され、すぐ切れるということはなくなりましたが、それでも1年に1本くらいは切れることがあります。

4.ラノリン処理の金属巻き弦
これはヤコブ・リンドベルイが行っている方法で、CDの解説に金属巻き弦を"treated with lanorin oil"したものを使っていると書かれています。このtreatedとは具体的にどういうことをするかがよくわかりません。ラノリンオイルに漬け置くのかこすりつけるのか?こすりつけるのはやってみましたが、振動時間が短くなるどころか時間は変わらず却って不良振動弦になってしまいました。どうやったらいいのでしょうね。


ヴァイスのソナタ25番、51番、95番(15)

2024年05月06日 13時38分03秒 | 音楽系

(前回のティモフェイ・ビエログラドスキ略歴の続き)

モスクワ写本の筆記者ティモフェイ・ビエログラドスキの演奏と歌唱は多くの人に賞賛されました。後に彼は1755年頃、残りの人生を過ごすためにサンクトペテルブルクへと居を移しました。そこでは少なくとも1767年までかなりの報償をもらいロシアの宮廷に勤めました。今日私たちに伝わるタブを書き冊子にまとめたのは正にこの地でした。ドレスデンで1741年に生まれた彼の娘は14歳にしてサンクトペテルブルクでは卓越した歌手でありピアニストでした。

ここまでが解説に書かれたティモフェイ・ビエログラドスキの略歴でした。このモスクワ写本はヴァイスの死後15年くらいにサンクトペテルブルクでヴァイスに近いところにいたロシア人によって書かれたものでした。私はてっきり第二次世界大戦中ソ連軍がドレスデンで鹵獲してモスクワに持ち帰ったものとずっと思っていましたがそうではなかったのです。

ビエログラドスキがヴァイスの弟子になったのは1737年以降でさらに一旦そこを去って1740年にまたドレスデンに戻っていますので、この写本に書かれている何曲かはヴァイスの晩年のギャラントな作風を反映していると考えられます。

ソナタ95番ト短調はそういった特徴を備えた楽曲です。ただ前期(ソナタ25番ト短調)中期(ソナタ51番ト短調)からさらにここまで作風が変わるのかということには私自身少し疑問もありますがよくわかりません。

2005年にエジンバラの聖ピータース教会でのコンサートと2019年のリサイタル で、ドレスデン写本にある36番とモスクワ写本の98番をまぜて5楽章の教会ソナタ+1みたいな形で演奏したことがありました。とてもギャラントなヴァイスでした。

 


新たな選択?

2024年05月05日 14時08分21秒 | 音楽系

マティアス・ヴァーグナーという人がやっていたリュート弦等の販売サイトはとても重宝していました。ガムート社以外のほとんどの種類を取りそろえ決済も簡明で送付も早かったのですが、少し前に彼は事業から去り別の方たちに事業継承しました。そのサイトはマティアスがやっていた以上に便利になったので、弦を注文するときはやはりこのサイトを使っています。

先日このサイトから注文した弦が届いたとき、一枚のハガキ様のチラシがはいっていました。それは新しく出たバス・レンジ用の弦の宣伝でした。曰く:

 

この弦はリュート製作家のへンドリック・ハーゼフースのアイデアをもとにそれを更に発展させたもので、私たちが独占的に製造しています。

 

ヘンドリックはケルンの製作家で80年代の中頃にイタリアのウルビーノのセミナーで初めてお目にかかりました。彼の楽器に興味があったので、ウルビーノからそのままケルンの彼のスタジオまでついていって楽器を見せてもらったことがありました。(ついでに1泊とめてもらいました)その後彼にロマンティック・ギターを1本注文したことがあります。彼の楽器はヨーロッパ中の演奏家に使われており、今村泰典氏も一番新しいバッハアルバムで彼の楽器を使っています。

その新発売の弦はHFという名で次のような特徴があるそうです。

1.銀メッキの銅線をカーボン弦1本の芯に巻いた弦

2.音の持続がかなり押さえられている

3.暗い”ブラック”な低音

4.ガット相当のゲージ

5.長さは125cmと150cmの2種類

現在アキラはナイルガット芯の銅巻き線(Dタイプ)を出していますが、かつてはそのDタイプの音の持続を押さえた弦を出していました。それらを使ったことがありましたが、確かに音の持続時間は減少していますが、それ以前に不良振動ばかりで弦としては使いがたいものでした。なお今のDタイプの芯は今のギター弦と同じ、細い繊維を束ねたもの(multifilament)ですが、件のHF弦の芯は1本=monofilamentです。

1本のガット芯に金属線を巻いた弦もかつてキュルシュナーから出ていましたが、これも試したことがあり、やはり使い物になりませんでした。

さてこのHF弦、興味深いので早速人柱になってみましょう。5月6月はコンサートがあるので弦を替えるわけにはいきませんが、夏になったら試してみようかと考えています。そのためにはもうそろそろ注文しなくては。


テオルボの弦選択

2024年05月04日 16時38分23秒 | 音楽系

25日のコンサートで使うテオルボ(75cm/116.5cm)の弦を交換してみました。テオルボ型のリュートの場合、弦が長くなる9コースと指板上の8コースの音質差がどうしてもでてしまうので、どんな弦を張るのかはなかなか悩ましいところです。

巻き弦を使っていた頃はこの段差が気にはなりましたが、バス弦が全てギンギンになるのでうるさいですけどそれなりに段差感は目を(耳を)つむることができました。

最近まだ張っていた弦は6コース~8コースがカーボン(サヴァレスKF)、9コースがアキラのCDL弦です。ホントは全てアキラのCD弦で張りたかったのですが、実際に張ってみるとよく切れます。アキラの方でもそれは承知しているようで弦長の長い楽器、あるいは長物のバス弦にはCDではなくCDLを張るようにとの指示が長ったらしい理論的説明とともにHPに記載されています。理論的な説明はよくわかりませんが、要するにCD弦は長い弦長の楽器に張ると切れますよということですし、実際に切れます。こんな怖い弦をバス弦にはるわけにはいかないので、CDL弦を9~14コースに使用しています。

ちなみにHPの資料から各素材の比重は、重い順にCD>KF(カーボン)>CDL>GUT(Nylgut)>Nylonですので6~8にKFのカーボンを張っていたのですが、8コースと9コースの段差がかなり大きいのが気になります。何年か前のコンサートではこの組み合わせでやってみましたが・・・

今回ここに思いつきでサヴァレスの銅巻き線(NFC132,172,212)を張ってみましたら、意外にも段差がほとんどなくなりました。4,5コースはKF、9コース以降はCDLです。やってみるものですねぇ。サヴァレスのNFCはピラミッドの真鍮巻き線よりはかなりソフトな音がでますし音の持続時間も短めです。もちろん持続時間が短めといっても弦長119cmの9コース以降よりは多少長いです。なにしろ巻き線ですから。でも音色的にはほとんど段差感がありません。

今回はあまりいじっている時間がないので、これで行こうと思いますが、まだまだ選択の余地はあるものです。


当選!

2024年05月03日 17時04分29秒 | 音楽系

メニコン ANNEXT HITOMIホールの予約が当選しました。

このホールは今まで何度も使っているホールです。今年のリサイタルでも使わせていただきました。

とても人気のホールで、ホール開業当時は電話予約が殺到して、1年前の予約を取るのに予約開始時刻の9時30分少し前から携帯と固定電話と、それでも足らないので知り合いに頼んで電話をかけまくったものです。それでも当該月は取れず、泣く泣く翌月を取ったこともありました。

どうしてそれほど予約が殺到したかというと、恐らくアマチュアの発表会、音楽教室の発表が大半だったようです。何年か経ったら、ホールの方で利用者の「審査」が始まり、プロかアマか、過去のリサイタルやコンサート歴、経歴などを聞いて会員証を発行するようになりました。これは名古屋の演奏家の方があまりにもホールを取りづらいのでホールに改善を要求したから、と聞いています。

そのおかげでそれ以降は普通に電話してほぼ希望の日が取れるようになりました。そして最近抽選申し込みがオンラインになり、各月1日に希望日を登録して抽選、翌々日に発表という方式に変わりました。抽選発表以降はオンライン(電話でもいいのかな?)で抽選で決まった以外の日を申し込むことができます。

抽選で当選した日は2025年5月18日(日)です。来年のリサイタルです。内容はほぼ決まっていますが、まだ詳細発表には早すぎますので追ってお知らせします。


Making of the box

2024年05月02日 13時47分50秒 | 音楽系

こんな感じの箱です。

設計値は高さ1801mm x 511mm x 331mmです。郵便(EMS)で送るには(縦+横)x 2 +高さが3000mmまでという制限があります。重さは20kgまでです。

内部はこんな感じ。

実はこれは最初に作った箱で、この内部の枠組みの木が検疫の規定にひっかかったのです。2つ目の箱(実質的には3つ目)は全面作り直しで、この構造材を集成材で作りました。なお外殻のベニヤ板は使ってもいい材料です。

一応図面らしきものがないと頭が混乱しますので作りました。ただしフリーハンドです。

まぁ自分用ですからこんな程度の物でも充分間に合います。DIYのお店でこれらの図面を見せてカットしてもらいました。実際にできあがった箱の実寸は設計値より2mm多い2987mmで3000mmに収まりました。誤差が出まくって3000mmを超えたら一大事でしたが、なんとか収まって良かったです。重量は最初の箱が中見込みで16kgありましたが、2つ目に作ったものは11kgで大幅減でした。これは外殻の5.5mmベニヤ板が3mm2枚分より随分軽かったからです。5.5mmのベニヤ表面はバルサ材みたいな感じでしたが、剛性は3mm2枚より高い感じがしました。