院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

法曹の精神医学音痴

2008-10-13 20:20:41 | Weblog
「宇都宮病院事件」以来、精神障害者の保護は年々進展してきている。これはたいへん喜ばしいことである。精神障害者が病院で看護者に殴られることもなくなった。

 だが、社会防衛という役割は、まだ精神科病院が担わされている。社会防衛というのは、患者の苦痛の除去のためではなく、社会の安寧のためだから、精神医療はまだ身体医療の水準に達しているとは言えない。

 まれに犯罪者の精神鑑定を頼まれることがある。それは司法鑑定ではなく、検察が申し入れる起訴前鑑定である。

 検察は、犯人が精神障害者だとの鑑定を受けると、不起訴にする傾向がある。これはたいへんな誤りである。精神障害者であっても、障害が原因ではない犯罪を起こしうる。それを、精神障害があるという理由だけで不起訴にしてしまうのは、あまりに不合理である。精神障害者への逆の意味での差別とも言える。

 同じようなことが司法鑑定にもある。猟奇的な事件が起きると、弁護側は必ず司法鑑定を要求する。理由は常識的には理解できない犯罪だということである。そこに先入見がある。常識的に理解できないと、精神障害とみなすという先入見である。

 一億人以上の人間が住んでいるわが国である。たまたま常識では理解できない犯罪が起こることもあるだろう。でも、それを精神疾患で片付けるべきではない。こうした弁護側の行動によって、多くの善良な精神障害者が迷惑をこうむっている。

 精神障害者のほとんどの行動は精神科医には理解できる。だが、猟奇的な犯罪は精神科医でも理解できない。そのような事例を司法鑑定に回す弁護側は、常識では理解できない犯罪は、すべて精神障害によるものだと考えているのだろうか。だとしたら、弁護側は不勉強のそしりを免れない。検察の精神障害に対する見方も同様に素人的である。法曹は優秀な人材ばかりなのだから、もっと精神医学の勉強をせよと強く訴えたい。