蹴りたい背中 (河出文庫) | |
綿矢 りさ | |
河出書房新社 |
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私が芥川賞作品を読まないのは端的に面白くないからである。小説は腹の足しになるわけではないから、音楽のように楽しくなければならない。私がモーツァルトやマイルスデビスを聴くのは楽しいからで、聴いたからといって腹が膨れるわけでも利口になるわけでもない。
綿矢りさが史上最年少の芥川賞受賞者として華々しくデビューしてから、もう10年になる。でもまだ綿矢は29歳である。テレビを避けていたのだろう、彼女はこれまでテレビに出なかったが、先日、NHKの読書番組に出た。とても美人である。
こういう若い女性がどんなものを書いたのだろうと、スケベ心も手伝って、芥川賞受賞作を読んでみて驚いた。面白いのである。アイドル風の女の子が、これほど自分や他人にシニカルなまなざしを向けうるのだろうか?乖離が心地よい。
この小説は「さびしさは鳴る」という、えっ?という導入で始まる。続けて情景や心理の新鮮な描写が次々と出てくる。昨年、直木賞を受賞した桜木紫乃の「ホテルローヤル」は、他人とは違う描写をやってやるぞという意識がみえみえだったが、綿矢作品にはそのような力みがない。
綿矢は桜木に比べてまだずいぶん読書量が少ないのだ。その分、自前の表現が出てくる。これは天分である。プロ棋士が小学生のころ、すでに大人を次々と負かしていたのと同じケースだろうと思った。