えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

過コラム:皆川亮二「Peace Maker1」(2008年4月)

2009年05月20日 | コラム
ネタがまだぎりぎり新しめなうちに挙げとこうと脈絡なく。
皆川亮二は話も絵も、あふれる爽快感が図抜けたまんが家だと思います。

:PEACE MAKER(月刊ウルトラジャンプ連載):皆川亮二

 漫画でも何でも、基本的に「明るい」作品がすきだ。言い方を変えると、作者の
ユーモアや楽しみが見える作品がすきなのだ。どんなに話が暗くとも、作者がどこ
かでちらりと見せる息抜きがあると明るくなる。ずーっとシリアスな顔つきをして
いたキャラクターの顔がたった一コマふっと隙を見せる瞬間、描いている人間の愉
しみがちらりと見えて途端に雰囲気が和らぐのだ。

 現代を舞台にした『AREMS』『スプリガン』などの作品から一転、南部アメリカ
のような西部劇を舞台に、しょっぱなからカラーページの贅沢なつくりから物語は
始まる。そこから15ページ、セリフは一切ない。この15ページは淡々とドラマティ
ックに仕上がっていて、人をしっかりと引き込む魅力的なイントロに仕上がってい
る。主人公の青年、ホープ・エマーソンは17ページ目で姿を見せるが、ここでも作
家の押さえが利いているので彼はすっと物語に溶け込んでゆく。そこから徐々に主
人公の力を見せてゆく盛り上げ方も、フキダシや効果線で強調することはせず、
四角いフキダシを守ったまま感嘆符でけりをつけてさっぱりしている。
絶叫に飽いたひとには嬉しいページの創り方だ。

 この作家は前作でも本作でも、キチガイを描かせると内面の描写も動かし方も吐
き気がするほど的確に描くのだが、本作ではマトモな主人公たちの表情を、小さい
コマの笑顔までくっきりと変化させて描いている。たとえばカジノのシーン、主人
公の相棒がチップを手に連勝してゆく部分では、たった4コマの一つ一つすべてに
違った表情が描かれている。この表情の書き分けに、作家の余裕と言うか愉しみが
見え隠れしていて、しごくクールな話の展開が重くは無いが軽くも無く、先を先を
とページをめくらせてくれるのだ。

 まだ1巻と言うこともあるが、ツボを的確に押さえた話の進め方なので、この一
冊で物語を形作る大まかな謎を読者に把握させる話の作り方はエライ。次の巻を愉
しみに待てる。
(792字)
コメント
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