大田区議会第二回定例会の補正予算に反対したのは、わずか3名の議員だけでした。(反対した他の2名が私の持つ問題意識を持って反対したのかは、わかりません。)
本会議場では、議案の態度(=賛成・反対)に対する討論をすることができます。私は、明らかに態度の理由がわかるものを除き、できる限り、反対した場合には討論をしてその理由を明確にしています。
特に、補正予算は、計上されている複数の予算について、ひとつひとつに賛否を表明することができず、一括して賛成・反対の態度を示さなくてはならないため、何を問題であるとして反対しているのかをできる限りわかりやすく表明することにしています。
=以下に私の反対討論を記載します。=
大田生活者ネットワーク奈須りえは、第64号議案「平成21年度大田区一般会計補正予算」に反対の立場から討論させていただきます。
今回の補正予算には、「特別出張所施設建設費」と「産業施設建設費」が計上されています。
名目は、「施設建設費」ですが、特別出張所建設費6615万5千円のうち、6938万4千円(アスベスト処理費用の方が多いのは、建築費用にマイナスの補正予算が計上されてるため)。産業施設建設費3億5340万円のうち3億4000万円。
合計すると施設建設費の98%、約4億1000万円は、施設建設ではなく地中から見つかったアスベストの含まれた土壌の処理費用として計上されています。
補正予算の審議は、総務財政委員会において行われ、また、建設施設が出張所と産業支援施設だったため、地域産業委員会においても審議されましたが、はたして、このアスベストの含まれた土壌汚染とその処理についての区の、議会に対する説明は十分だったと言えるでしょうか。
東京都の環境確保条例のアスベストの安全な処理に係る所管でもある環境保全課は、このアスベスト処理にいっさい関わっていないと答弁していますが、そのような姿勢で安全な処理が行えるのでしょうか。
区が行ったアスベストにかかわる大森南の地質調査・土壌分析報告書や、土壌処理にあたって区が予定している仕様について、資料請求を行いましたが、議決をする本日になっても一部が開示されただけで、全容は明らかになっていません。
6月8日に地域において説明会を行った際にも、アスベスト土壌の処理については、参加者からの質問を受けて初めて行われたと聞いています。
命の危険さえある決して安全とは言い難いアスベストが地中にあり区がその処分を予定しているのであれば、当然、区民との十分なリスクコミュニケーションが必要です。
重要な事実を明らかにしないまま、区民への説明を終了させようとし、同様に議会への十分な説明もないまま、補正予算を議決しようとする姿勢には、大きな問題があります。
一方で、大田区は、なぜここにアスベストが放置されているかという原因について特定していません。
そこで、この土地の履歴について、簡単に説明します。
この土地は、1939年に宮寺石綿理化工業㈱が買収し、同社の大森工場として同敷地に多くの建物を建設して1978年まで操業していました。
宮寺石綿理化工業㈱はアスベストを使った断熱材を扱う会社です。
1978年に米山紙商事㈱の所有となり、敷地内の建物は物流倉庫に建て替えられています。
2004年に大田区土地開発公社が米山紙商事㈱から同土地を購入しましたが、その際に土壌調査したところ、ふっ素およびその化合物のあることが判明し、敷地内のふっ素等の出た箇所について数十センチから1.6mの深さまでの土を掘削し処分しました。
2008年12月、大田区がアスベストを対象に、同敷地3623.23㎡の28か所をボーリング調査したところ、クリソタイルとアモサイトが、26か所から検出されました。アモサイトは発がん性の高いアスベストです。
アスベストの疑いのある物質は、目で確認できるほどで、一部はかたまり状になっていたと区が委託した報告書に記載されています。
大森南は、2006年にアスベストによる環境被害者がみつかった地域で、多くのプラ―ク患者が現在も住んでいます。
そうした背景からも、今回の地中から見つかったアスベストが、なぜそこに放置されていたのか、大田区は調査すべきです。
区はアスベスト工場のあった土地の取得には、慎重であるべきだったと発言するなど過去の所有者と今回のアスベストとを関連付けた答弁も行っています。
また、汚染源者負担の原則から言えば、十分な調査も無く安易に大田区が土壌処理費用を負担することは、適正な税の投入という視点からも問題があります。
ふっ素処理の際には、土地購入の際の覚書に基づき米山紙商事㈱と1/2ずつの土壌処理費用負担をしていますが、今回は大田区が100%負担するのでしょうか。
アスベストの不法投棄場所となっていた岐阜県椿洞(つばきぼら)では、土壌を入れ替えるなど手を加えることで飛散の恐れがでるという判断から、最終的には土壌処理せず、埋め戻すという選択をしています。
今回の土地活用については、必ずしも地元からの合意が取れているとは言い難い状況もあると聞いていますが、今回、大森南のこの土地に多額の土壌処理費用を投入し、最終的に当初の使用目的を達成することができるのでしょうか。
一方で、2006年のふっ素の処理の際に、大田区は、土壌を掘削しています。アスベストが放置された経緯によっては、その際にアスベストを飛散させていた恐れもあり、飛散の可能性の有無について大田区は区民に示す責務があります。
また、今回の予算は、地中のアスベストを非飛散性として扱う処理を選択していますが、地中のアスベストを非飛散性として扱う根拠が乏しく、はたして、この処理方法でアスベストを飛散させない対策をとることができるか不明瞭です。
今回の土壌処理は、今後のアスベストによる土壌汚染と不法投棄について、日本で初めて行政として方向性を示すと言える重要な工事です。
それが、このように、根拠が不明確なうえ、不十分な説明のまま行われることは、税の適正な投入という視点からも、また、大田区が、区民の健康と命を守る立場に立っているかという視点からも大いに問題があり到底賛成できるものではありません。