(1)ドイツが大きな選択をした。G7国で初めて国連の核兵器禁止条約にオブザーバーとして参加することを表明した。今年退陣するメルケル首相の置き土産かと思われたが、次期連立政権での話(連立合意文書)だ。
ドイツはこれまでも第2次世界大戦の戦争責任を認め、当時のシュタインマイヤー大統領が謝罪、東日本大震災での福島第一原発事故を受けてはエネルギー政策を原発から再生可能エネルギーに転換する方針を決める節目、節目での大きな決断を示してきた。
(2)日本は旧日本軍のアジア侵略植民地支配、第2次世界大戦でも自民党の一部に正当性を主張する意見があり、謝罪を求める中国、韓国との歴史認識問題でも終戦後に政治決着しているとして要求に応じていない。
唯一の戦争被爆国日本は同盟国米国に配慮して、国連の核兵器禁止条約には参加せずに、福島第一原発事故で復興が進まない中で、将来エネルギー計画で原発再稼働をベースロード電源とする政府方針、姿勢とは大きな違いがある。
(3)ドイツの核兵器禁止条約オブザーバー参加表明に対しては、米国のブリンケン国務長官は「核兵器の保有国が参加しない条約で禁止しようとしても成果はえられないだろう」(報道)と述べているが、戦争責任を認め謝罪したドイツが核禁条約に参加する意味は大きい。
ドイツは非核保有国であり、メルケル首相は政治と経済、平和の壮大な実験場としてのEUを主導するダイナミズム(dynamism)として役割を果たし、ドイツ政治を16年間率いてG7でも影響力のある政治家だ。
(4)そのドイツの後継次期連立政権が国連の核禁条約にオブザーバーとして参加するとなれば、これまで核禁条約を不平等条約として参加を否定してきた核保有国の正当化、自己利益論理から軸足が核禁条約、世界平和に移るはじまりになる可能性はある。
そこでこれに唯一の戦争被爆国の日本が加わればさらに意味、意義、存在、勢いは高まることが考えられる。
(5)核保有国の論理は、核保有国が核禁条約に参加し規制、制約に縛られれば現在核開発中の国の脅威が増して安全保障のバランスが崩れるというものだが、国連の核禁条約締結参加国は100を優に超えており、これに核保有国が加われば圧倒的な核禁支持勢力、政治力となり核開発中の国にも抑止力になる。
岸田首相は広島選挙区選出で核兵器廃絶に取り組むと表明しており、日本の存在、核禁条約参加は意味のある影響力のあるものだが、G7国として米国と距離を置くドイツと米国と強い協力関係にある日本との違いがドイツに先を越され、政治力、政治理念、政治哲学の違い、影響力が出て残念だ。
(6)ドイツもEUを主導してきて、ヒト、モノ、カネの自由往来は民主主義、自由主義の基本理念の実践であるが、押し寄せる難民問題、EU内の債務超過国問題でむずかしい対応に迫られてEUからの英国の離脱となり結束にヒビが入り、民主主義の後退がいわれる時代にメルケル首相の16年の長期政権がどういう位置づけ、評価をされるのか、報道によると退任式では本来はクラシック音楽が好きなメルケル首相が選んだ自身が育った旧東ドイツのパンク歌手のヒット曲を使った送別曲に、目に涙を浮かべて聴き入ったとある。